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家族から捨てられる父親。夫婦こそ最大のリスクヘッジになるのにもったいない!

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半沢直樹が裏切られなかった可能性も……!?

水無田 いつも思うんですけど、女性が働きやすくなりさえすれば、この国の多くの問題が解決するんですよね。でもそれが、まったく進んでいない。女性が安定した雇用で働けるようになれば、夫も大黒柱としてのプレッシャーをひとりで抱え込まなくてすむようになり、ひたすら会社の意向に沿う形で長時間働く必要がなくなれば、それだけ子どもとの時間を作れるようになる。男性の家事育児参加が高まれば、女性のほうは家庭生活満足度が跳ね上がり、第二子を産もうというインセンティブも高まることが分かっています。これは、少子化対策になります。

―― 累積している社会問題がうまく解決しそうに思えますね。

水無田 ジャーナリストの治部れんげさんがおっしゃっていましたが、彼女がアメリカで主夫業をこなしつつ転職活動中の男性に取材していたところ、男性にヘッドハンティングの電話がかかってきたそうなんですね。そのやりとりを聞いていると、ヘッドハンティング先のお給料がどの程度かよりも、妻と有給休暇を合わせられるかどうかを聞いている。妻がしっかりとしたキャリアを持っているので、自分自身のお給料より時間を優先できるんですよ。

―― 男性ひとりが家庭の収入源となっている場合では、家族の時間よりも給料を優先せざるを得なくなる。だから昇進もしたいしリストラされないように頑張る。そして家族からもっと家庭を省みてほしいと要望されたとしても、「仕事なんだから仕方ないじゃないか/家族のために働いているのに」と反撥を覚えるのでしょう。

水無田 ドラマ『半沢直樹』(TBS系)で、同期の近藤直弼が半沢を裏切っちゃったじゃないですか。マイホームを建てたあとなのに出向ですぐに手放すこととなり、さらにドラマ後半では別の土地に左遷されそうになってしまった近藤の悲劇は、ひとりの稼ぎで妻子を一生養わねばならない旧来のサラリーマンならではの問題です。近藤は妻子のため、半沢の敵である大和田常務からの「半沢を売れば東京本部に戻す」という取引にのってしまった。もし左遷を言い渡された時に、妻にもキャリアがあったら「妻も働いているので、その命令は考えさせてください」と言えたかもしれない。万一会社を辞めることになったとしても、妻が稼いでいれば、転職先を探しながらハウスハズバンドをやれる可能性だってあったと思うんですよね。意に沿わない異動や雇用条件の変化などを突きつけられた時、妻の就業は最大のリスクヘッジになるんですよ。

―― 妻が仕事を持っていることがリスクヘッジになる。その発想は、日本男性がなかなかしにくいものかもしれません。最後に、女性中心のmessy読者に対してアドバイスなどお聞かせいただければ。

水無田 まずは離婚をしないための夫婦の戦略としては、話し合いをして、家庭を運営していくことが大切だと思います。今まで日本では、人生のすりあわせをしなくても、男性が働いて女性が家庭にいればそれでよかったのかもしれませんが、今はさまざまな事態を想定しておかないといけない。だから、女性から見て話し合いに応じないような男性はね、選ばなくていいと思いますよ。変化の激しい社会のただ中で、今後はますます話し合いのできない相手と結婚生活を続けるのは難しいでしょう。

―― 想定外の事態についても予測し、話し合いをしておける夫婦が理想ですね。

水無田 また子どもができた時には、新しい夫婦関係を築くために、いったん子どもを横において、2人で話し合うようにしないといけないと思います。日本の女性って、やけにスペックが高いんですよ。託児の手配からご飯の用意から、掃除洗濯までなにからなにまで自分でやって、不満も抱え込んでいる。倒れるほどぼろぼろになって初めて男性が異変に気づく。キツい時には、ちゃんとSOSを出せるように夫とコミュニケーションをとるべきだと思います……と自戒を込めつつ(笑)。

それでもやはり、離婚することだってあると思います。不確定な時代ですから。安定していると思われていたものが、どんどん流動化している。結婚も、してみないとわからないものです。私の本の中でも、聞き取りをした女性の中には、何年もつきあって相手のことを知り尽くしたつもりだったのに、いざ結婚したら隠し借金がわかったという人もいましたし、結婚してからDV夫になってしまったという人もいました。結婚して初めてわかることだって、たくさんあるんです。また、就業や健康状態などによって、人は変化します。一生ずっと同じく安定した状態でいる人がいないように、相手も自分も変化します。それが好ましい変化ではない場合は、離婚することになるかもしれません。この可能性は、常に念頭に置く必要があります。

そんな時、経済基盤から人間関係まですべてを夫に依存してしまっていたら、離婚後に大変な思いをすることになります。だからこそ、万が一のために、自分と子どもの幸せを考えて、選択肢を増やしておくことが大事だと思います。キャリアもそのひとつでしょうね。男性も、今後はパートナーが就業継続していたほうが家計破綻リスクが低下するだけではなく、「世帯単位での選択肢を増やす」という意味で、自分自身のキャリアにとってもプラスになるという意識を持ったほうがいいと思います。今後は妻の家計貢献がなければ家計維持は困難になっていきますし、一生専業主婦でいる女性のほうが少なくなっています。流動化が進んだ社会では、できるだけ選択肢を用意できたほうが不測の事態に対し備えられます。選択肢を用意して、最適だと思うものを客観的に選べる環境をいつでもつくっておくことが重要ではないでしょうか。
(インタビュアー・構成/カネコアキラ)

水無田気流(みなした・きりう)
1970年生まれ。詩人・社会学者。詩集に『音速平和』(中原中也賞)、『Z境』(晩翠賞)。評論に『黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』(光文社新書)、『無頼化した女たち』(亜紀書房)『シングルマザーの貧困』(光文社新書)。本名・田中理恵子名義で『平成幸福論ノート』(光文社新書)など。

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