―― ネットで検索するといろんなことが書いてあるんですよね。生存率が高いとか低いとか、人によって言うことはバラバラですし、そのせいで不安になってしまうこともありました。医師の説明って大事ですよね。
まき いまどきの病院は「説明」にかなり神経を遣っているようです。丁寧に病状を説明していただいて、素人にも病状や今後の経過がよくわかりました。ただ主治医は科学者気質というか数字主義で、むやみに期待を持たせるようなことはおっしゃらない。すがる人が目の前の医師しかいない患者家族にとっては、病気判明時は、根拠の無い励ましだろうとまず安心する言葉がほしいのですが。そこのかけちがい、期待のしすぎが、後に転院先を探すなどの医師不信につながって行きました。私たちが病気に動揺しすぎていたせいで、医師が何をしたとかではないのですが。
―― でも確かに漫画で描かれている医者の対応はちょっと無神経というか、無邪気だなあと思いました。手術でとった組織を突然見せたり、「思ったより生存率が低かった」と手術前に言ったり。患者さんやその家族への心のケアって大事だと思います。
まき 医師との意思疎通には色々問題があったと思っていますが、双方悪気は無いんですよね。登場する医師たちのKYっぷりには、本を読んでくださった医学者さんが「(医学者)あんなふうでごめん!」と言ってました(笑)。でも退院して振り返ると、医師は接客業ではないのでかゆいところに手が届くようなケアは期待するものじゃないし、そこを望みすぎるのは肝心の医療のクオリティを下げるだけなので控えるべきだったんだなと。
「病院にいたら病気になる」とは入院経験のある人からよく聞きます。夫も私も、夫の入院中に何度も気分の沈む波がありました。介護の家族が入院患者の心に寄り添いすぎてまいってしまうというのは、他の患者家族からも聞きました。私は、一番大変なのは夫だからと、自分の不満や不安の気持ちを無視しました。そして長い入院中にどんどんメンタル的に良くない方向に行ってしまいました。もっと気晴らしをしながら、明るく介護したほうが良かったですね。
―― 実際、漫画の中ではまきさんご自身も、ギリギリだったんだろうな、と思う描写が見られました。クロとらさんは、抗がん剤を数回投与した後に外科手術を行い、また数回抗がん剤を打つという治療を受けていますよね。これは僕が受けた治療とほぼ同じでした。この方法が確立されたおかげで生存率が上がったと医師からは聞いています。抗がん剤の副作用はどのようなものがありましたか?
まき 夫はまず味覚がおかしくなりました。お茶の味がおかしく感じられ、かろうじて飲めるのは水だけ。食欲も落ちて、病院食を残すことが増えました。でもちゃんと食べないと体がもちませんから、喉を通るものならなんでもいいから、食べられるものを少しでも食べてほしかった。夫は果物なら喜んで食べてくれました。人によって食べられるものは違うみたいですね。味の濃いものだったり、冷たいお豆腐だったり。
―― 僕も果物やゼリーがさっぱりして食べやすかったです。だからこそ、無性に油っぽいものを食べたがったりしていませんでしたか?(笑)
まき ありました。病院食は薄味で温度も下がっているので「味が単純で塩からく熱々の油っぽいもの」が食べたかったと。ホカ弁ののり弁のことを恋焦がれるように思っていたとのことです(笑)。夫はもともとさっぱりしたものが好きなので驚きです。
ただ、覚悟していたほどは、薬の副作用には苦しまなかったように思います。抗がん剤の副作用を抑えるためのいい薬が今はあるんですよね。
―― 副作用を抑える薬を打ってもらうとたちまち楽になったり、吐き気が止んだりすることもありましたね。僕の場合は、ドラマや映画で描かれるほど悲壮な感じはありませんでした。髪の毛、というか全身の毛は抜けましたが(笑)。あれ痒くてたまらないんですよね。治療中はお風呂に入れない時期も多いですし。