家族がガンになる前に、知っておきたいお金のこと

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 夫「クロとら」さんが骨肉腫を罹患し、その闘病生活を描いた、まきりえこさんの『夫が骨肉腫になりました』(扶桑社)。家族が突然100万人に1、2人がかかるという希少なガン「骨肉腫」に罹ってしまったら!? 前編では家族の心のケアについてお伺いしましたが、後編では経済面についてお聞きしました。前編はこちら。

―― 前編では、告知後や治療中の家族の心のケアについてお話を伺いました。後編では経済面に注目してお話を伺いたいと思っています。会社員のクロとらさんが入院されたことで、やはり収入面での不安はあったのではないでしょうか?

まき 今お金に困るというより「どうなってしまうのか……」「お金はいくらかかるのか」「夫は仕事を続けられるのか」といった、将来への不安が大きかったです。キツい抗がん剤治療を一年も続けた夫に、かつてと同じだけの仕事をするような体力が残されているのか……。

骨肉腫は若い人がなることが多いので、ネットで検索しても働き盛りの方の闘病記って数えるほどしかないんですよ。そうした闘病記を読んでいても、やっぱりみなさん仕事にはたいへん苦労されているようです。長期入院で退職を余儀なくされたり、どんなに高いスキルを持っていても履歴書に「がん(腫瘍)の既往歴がある」と書いたら採用してもらえなかったり。企業からしたら、再発して仕事に穴があくリスクを考えるとあえて採用したいとは思わないのかもしれませんね……。「失業したら職探しはかなり厳しいものになるだろうな……」と思いました。

幸い会社からは「退院後にまた頑張ってね」と温かい言葉をいただき負担の軽い部署に異動してもらえたのですが、残業ができないため収入は減ってしまいましたね。

―― 「100万人に1人の病気」といっても、必ず誰かがなるということですよね。配偶者かもしれないし親族かもしれない。友人や同僚の可能性もある。そうした想定のもとで制度や支援を組み立てていくのが望ましいと思うんですよね。高い治療費を払って治ったのに、先行きが見えないと「あんなに頑張ったのになあ」と落胆してしまう。

まき そう思います。もし家族の収入を主に背負っている人間が入院してしまったら、病気という不安と貧困という不安が同時にのしかかってくる。どちらか片方だけでもいっぱいいっぱいなのに……。

実はガン闘病中の知人から重ね重ね「ガンは2人に1人が罹患する国民病だから、ガン保険には入っておけ」と言われていたんですよ。その矢先に骨肉腫が発覚したんです。夫の職種って、たぶん危険職種とみなされてしまうんですね。

―― 高所での作業や警察官など、危険度の高い職種のことですね。

まき ええ、だから入れる保険はあまりないんだろうなあとモタモタしちゃって。安心するための「心の安定料」として、身の丈に合った保険に加入しておく意味は大きいんじゃないかと思いました。そしてやはりまず最初に頼りになったのは、職場で加入の「健康保険(社会保険)」でした。

―― 保険っていざ使うとなるとややこしくて、どんなときに何が使えるのか、どれくらいお金がもらえるのかわからないですよね。まきさんはどうされていましたか?

まき 夫は会社員で、「けんぽ(社会保険)」に加入していました。調べたいことはだいたいそのウェブページに載っていたように思います。加入している社会保険会社ごとに若干補償の内容が違います。自営業者などの加入している「国民健康保険」には、以下で説明する補償がなかったりもしますので、まず加入の保険(社会保険・国民健康保険)を把握し、ウェブページをざっと見ておくといいと思います。

私の場合は、休んでいる間のお給料はどうなるのか。書類を揃えるといった事務処理はどのようにすればいいのか。誰がいつまでになにをどこに出せばいいのか。いま支払えるお金の手持ちが足りないときは、どこに相談すればいいのか。来年の税金対策に必要なことは……などなど調べました。

実際に病気をしたことがないとわからないことだらけです。経験者や知人に聞くのもいいと思いますが、勘違いして覚えている可能性もありますから、まずは加入している健康保険のウェブページを開いたり、電話で問い合わせてみるといいと思います。会社員の方なら、会社の社会保険の窓口に相談すれば、受けられる保証ややるべきことを教えてくれますよ。

―― 経験者の僕ですが、学生だったのでお金のことは親にまかせっきりでなんにもわかっていませんでした……。

まき 健康な人は意外とご存じないのですが、「社会保険」に加入している人や扶養家族は、高額な医療費を使っても、かなりの部分は返ってくるんですよね(高額医療費制度。たとえばけんぽの場合標準報酬月額26万円以下の人は、ひと月の自己負担額は最大5万7600円となり、それ以上の額は後日返還される)。「社会保険」の場合は「傷病手当て」と言って、ケガや病気で働けなくなってもしばらく(保険によりますが一年半など)は、収入の3分の2がもらえる仕組みもありますので、収入がゼロになるわけではありません。

ですから、「入院したら収入は途絶え、とんでもない治療費が必要になって大きな借金を負ってしまった」といった海外ドラマのようなことは日本ではなかなか起きません。ただ給与が3分の1といえど減るのは家計を直撃することですし、高額医療費制度があると言っても、健康保険が補填してくれない差額ベッド代(個室に入るなど、医療保険の給付以上に病院のベッド使用料が高い場合にかかる金額)や介護のために病院に通う交通費など、健康なときには必要なかった出費が家計を圧迫するのも事実です。

病気のことなど想像もしたくないかもしれませんが、前もって知っておくことが家族を守ることになるかも知れません。健康で幸せに暮らしている家族であっても「夫が突然鬱になって退職」なんてことがリアルに想像できる時代ですよね。「傷病手当て」は健康保険の制度ですから退職したら一切支払われない。その際に「退職の時点で傷病手当を受給している事実があれば、退職後も延長して受け取れる」ということを知っていたらどうでしょう? 健康を取り戻し、生活を立て直すまでの家計が安定しますよね。『夫が骨肉腫になりました』では「お金のこと、制度のこと」を漫画で説明しているページがあるので、とっかかりとしてお読みいただいて、家族を守ってほしいと思います。

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