誰の時間も平等に刻まれ、愛の形は変わりゆく。『博士と彼女のセオリー』

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『博士と彼女のセオリー』公式HPより

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『博士と彼女のセオリー』    ジェームズ・マシュー監督

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患いながらも、理論物理学者の立場から宇宙の起源の解明に挑み、現代宇宙論に多大な影響を与えたスティーヴン・ホーキング博士。そんな人物についての実話に基づく映画、と聞くと、立派な偉人の伝記映画(本人は現在73歳で御存命だが)を想像してしまいそうになるが、むしろそんな映画を期待していた人とっては肩透かしだと感じるかもしれない。本作は、彼がどんな天才であろうとなかろうと、肉体が自由であろうと不自由であろうと関係ない、一組の夫婦の喜びと哀しみについての、普遍的なラブストーリーだった。

※本コラムは映画本編のネタバレも含みます。ご了承ください

模範的な夫婦ではない

 1960年代のイギリス、優秀だがおとなしい理系青年ホーキングと、聡明で活発な文系女子ジェーンが大学のパーティーで出会い、恋に落ちる。ロマンチックなデートを重ね(しかし初デートが彼の実家と言うのは時代のせいなのか女慣れしてない性格のせいなのかは微妙……)、若いふたりは幸せな時間を過ごす。

 そんなある日、普通に歩いてる最中に転倒したことをきっかけに、ホーキングはALSだと診断され、余命は二年だと宣告される。想像もしてなかった事態に、ホーキングは激しく落ち込み、周囲を拒絶し、ジェーンをも突き放す。だが、友人から彼の病気のことを聞いたジェーンは、迷うことなく、彼と結婚するという選択をする。

 そのときはまだ手足も自由に動き、言葉も話せたホーキングだが、月日が経つにつれ徐々に病気は進行し、車椅子生活が余儀なくされても、ジェーンは親身に彼の生活の世話を続ける。

 ここまでは、障害者の夫と、それを甲斐甲斐しく支える献身的な妻、という、教科書に出てくるような模範的な夫婦の物語だ。だがしかし、妻ジェーンの自伝が原作だと言う本作は、教科書には決して書かれない、彼と彼女の小さな感情の積み重ねを描く。

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