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愛情だけでは、子供の問題は解決しない 『学校へ行けない僕と9人の先生』棚園正一×荻上チキ

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トライ&エラーに付き合い続けることが親の出来ること

棚園 漫画にも描きましたが、中学のときに、通っていた塾で、「子供が学校に行かないのは親の責任だ」と言われたんですね。それを母親にまで言っていて。僕は親のせいだなんて思っていないのに、そんなことをするなんて意味がわかりませんでした。なにもしていないのに、いきなり爆弾を落とされた気分だった(笑)。

荻上 引きこもりでも「追い出し屋」みたいな人がいて、引きこもっている人を部屋から追い出して、説教したり、厳しい環境に叩き込むんですね。

棚園 ああー……。

荻上 「教育とはこうあるべきだ」「望ましい生き方はこうだ」といって、そこから外れている人たちを強引に「矯正」させるモデルの人は様々な業界にいます。当事者が抱えるニーズとか、取り巻く環境への問いが一切なく。

「子供が学校行かないのは親の責任や」/(C)棚園正一/双葉社

「子供が学校行かないのは親の責任や」/(C)棚園正一/双葉社

親にとって子供はかけがえのない存在だと思いますが、親は教育や医療などのプロフェッショナルではありません。愛情だけでは、子供が抱えている問題は解決しません。しかし、問題が解決しないことをもって、周りも「親の愛情が足りない」とか難じたりする。「愛情がある/ない」以外の言語パターンを持たないと、自分が悪い、あるいは子供が悪いって思うようになっちゃうんですね。そのときに、ひとつでもピンとくる知識を持っていたら、支援してくれる学校に行くとか、病院に相談に行くとか、選択肢を手に入れられる。

棚園 解決するための方法が思い浮かびますね。

荻上 だから家族だけで抱え込まないこと。そして悩みではなく課題にすることが大切なんです。子どもの病気を、医者でもないのに勝手に「治療」する親はあまりいませんが、育児なども本来は同じで。悩みつつ、トライ&エラーを繰り返すことと、それに付き合い続けることが重要なんだと思います。ただ、この作品を読んでもわかるとおり、社会にはいろいろな人がいますからね。「私に任せてくれればどうにかなる」と言って怪しい人が近寄ってきて、カルト宗教やマルチ商法、ニセ医学に繋がってしまうかもしれない。それでも、いろいろな選択肢を試して欲しいと思います。

―― そろそろ時間なのですが、最後におふたりに質問をさせてください。まず棚園さんは作品を誰に読んで欲しいとお考えですか?

棚園 明確に読者の顔を思い浮かべて描いた作品ではなかったんですけど、結果的に幅広く、あらゆる世代の方からメッセージをいただけました。今のところお母さんや先生からのメッセージが特に多いんですけど、例えば会社とかも同じで、限定された様々なコミュニティに馴染めず困ってる人達に当てはまると思うんです。この漫画が何かのキッカケになり、どんな感情でもいいから「読んでよかったな」と思っていただけたら嬉しいです。

―― 荻上さんは代表を務められている「ストップいじめ!ナビ」をNPO化されましたが、今後のご活動の予定をお教えください。

荻上 いじめの実態や方法論を調査し報告する「いじめ白書」を製作中です。まだまだ課題は山積していますが、徐々にわかりつつあることもありますから、こつこつとロングスパンで取り組んでいくことですね。
(企画・構成/カネコアキラ)

荻上チキ
1981年生まれ。シノドス編集長。評論家・編集者。NPO「ストップいじめ!ナビ」代表。著書に『ネットいじめ』(PHP新書)、『いじめの直し方』(共著、朝日新聞出版)、『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)、『彼女たちの売春』(扶桑社)、『夜の経済学』(扶桑社 飯田泰之との共著)、『未来をつくる権利』(NHK出版)など。

棚園正一
1982年生まれ。漫画家。第11回漫画アクション新人賞佳作受賞。代表作:『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)、『まんくう』(名古屋・大須商店街に実在する漫画が描ける漫画喫茶「漫画空間」をモチーフにした読み切り作品)等。

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