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「病児保育」は親のため? 子供のため?――『37.5℃の涙』作者・椎名チカ×駒崎弘樹

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マイノリティとなった子育て層の闘争

―― 先日も道端アンジェリカさんの「週に1回ベビーシッターに子供を預けて夫とデートに行きたい」という発言が炎上していましたね。

駒崎 そんなことすら説明しなくちゃいけないのか! という絶望感がありましたね……。

椎名 思った以上に若い女性が嫌悪感を抱いているのに驚きました。「母として間違っている」とか……。

駒崎 離婚率も高く、非婚社会でもある現代で、結婚したら子供を持つというのが当たり前の社会ではないので、子育て世帯がもはや身近でない人がほとんどです。その中で、マイノリティ化している子育て層の権利を獲得していかなくてはいけないわけですから、やはりこれは戦いなんだ、と思います。

椎名 子育てしやすくするために戦わないといけないんですね……。

駒崎 ええ、子育てをしている親は周囲に「ごめんなさい」と謝るような存在ではなくて、的外れな文句に対して「え、何言ってるの?」と堂々と声を上げて、そしてきちんと説明していく必要があるんだと思います。そうでもしないと、我々の子供の世代までもが我々と同じような扱いを受けることになる。それは僕らの世代の責任だと思うんです。

今、障害者が自らの権利を獲得していった歴史を勉強しているんですが、現代の子育て闘争と非常に酷似しているんですよ。70年代って市バスは車椅子の乗車をお断りしていたんですよね。

椎名 えっ!

駒崎 今じゃ当たり前に車椅子の方は市バスに乗れますから、「えっ! そんな時代あったの!?」って驚くじゃないですか。でも当時は「他の乗客に迷惑だから乗らないでください」ってバス会社が言っていたんです。

そこで「全国青い芝の会」という脳性まひ者の障害者団体が「僕たちも生きているんだ!」と声をあげたんです。車椅子に乗ってみんなでゲリラ的にバスへ乗り込んだんです(笑)。しかもメディアを呼んで、その様子を撮ってもらった。「バスに乗り込む障害者」って当時は相当なインパクトがあったんでしょうね。このことをきっかけに、車椅子がバスに乗車できない現状が広く知られるようになって、車椅子でもバスに乗れるようになった。

椎名 今、当たり前にノンステップバスが走っている背景には、そういう歴史があったんですね。

駒崎 そうなんですよ。だから黙っちゃいけない。ベビーカー論争にしろ、道端アンジェリカさんの発言にしろ、病児保育にしろ、それが必要なんだということなんです。そうすることで子供を虐げているとか、子育てに手抜きしているわけじゃないんだということを伝えていかなくちゃいけないんだと思います。

病児保育はその象徴的なものなんだと思います。30~40年前だったら子供が体調を崩しても「母親が世話をするのが当然」と考えられていたから、問題にすらなっていなかった。今は「病児保育」という存在そのものが問いを投げかけていると思うんです。「そもそも、どうして病児保育がなくちゃいけないんだっけ?」という。その答えはきっと「働き方も家族のあり方も変わっていて、そのために必要なインフラなんだよ」というものなんだと思います。ただ新しい存在のため、既存の価値観にはまっていないから、理解してもらえない。時代を象徴する存在なのかなあと思います。

椎名 変化の兆しはあるんですか?

駒崎 充分とは言えませんが、ちょっとずつ変化しているように思います。以前、「なんちゃってイクメン」を揶揄するような風潮があったじゃないですか。「イクメンっていうけど、かっこつけているだけじゃん」みたいな。よく考えてみるとそういう言説すら過去にはなかったわけですよね。かっこつけたいからイクメンぶる。イクメンぶるけど様になっていないから揶揄されるわけですけど、これってすごい一歩だと思いますよ。だってある意味「育児に関わろうとすることはかっこいい」ってなってるわけですから。

僕が2010年に厚生労働省でイクメンプロジェクトを始めたときはまったくそんなことなかった。「育児やっているくらいでドヤ顔してるんじゃないよ、私たちはずーっとやってきたんだ」って中高年の女性に叩かれてばかりでしたから(笑)。イクメンが浸透してきて、育児に参加することがかっこいいと思われつつある。あと5年、10年頑張ったら変えられるんじゃないかと思います。これからは『37.5℃の涙』もありますし(笑)。【後編に続く
(企画・構成/カネコアキラ)

駒崎弘樹
1979年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、「地域の力によって病児保育問題を解決し、子育てと仕事を両立できる社会をつくりたい」と考え、2004年にNPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを開始、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートする。2010年からは待機児童問題の解決のため、「おうち保育園」事業を展開し、小規模認可保育所として政策化される。2012年、一般財団法人日本病児保育協会、NPO法人全国小規模保育協議会を設立、理事長に就任。現在、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、内閣府「子供・子育て会議」委員、東京都「子供・子育て会議」委員等を務める。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)、『働き方革命』(ちくま新書)等。一男一女の父であり、子供の誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。

椎名チカ
神奈川県出身。第59回小学館新人コミック大賞入選。「アタシが部屋にあげる理由。」(Cheese!2007年3月号増刊)にてデビュー。代表作に「37.5℃の涙」(1~3巻)、「青の微熱」(全3 巻)、「12歳からの秘密」ほか多数。4歳になるひとり娘の子育てをしながら、Cheese!にて 「37.5℃の涙」を連載中。 

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