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子供がいても、楽しく働いていい――『37.5℃の涙』作者・椎名チカ×駒崎弘樹

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仕事しているのって楽しい

©椎名チカ/小学館

桃子とその母。©椎名チカ/小学館

駒崎 虐待と言えば、桃子は自らの家族とは絶縁状態にあって、兄姉から虐待のようなものを受けていた描写もありますよね。これはどんな狙いがあったのでしょうか?

椎名 うーん……桃子の設定は、他の家族との対比を意識している部分はあります。でも基本的に全編を通じて伝えたいのは「“家族はこうあるべき”という絶対的なものはないんだ」ということなんですね。「母親はこうあるべきだ」「理想の家族像はこうだ」みたいなものが強すぎる気がするんです。人によって働き方も違うし、子供の性格も、数だって違うのに、ひとつの枠に当てはめることなんて無理だと思うんですよ。「それぞれの家族」を描きたいなって思ったんです。「発言小町」を見てると、本当に皆さんいろいろなことで悩んでいるんですよね。

駒崎 ええ、よくわかります。

椎名 私の作品の電子書籍サイトにはコメント欄があるんですけど、漫画の感想よりも「2児の母で、仕事をしていて~」といった自分のお話をされる方が多いんですよね。皆さん「私もそう!」と思ってくださっているんだと思います。1巻の3話で「仕事しているほうが楽しい」って働きながら子育てしているお母さんが発言するシーンがありますよね。「誤解されちゃうかな」ってすごく心配していたんですけど、意外と共感してくれる人が多かったんです。私も子供を産んでから「仕事しているのって楽しいな」って思うようになりました。

「仕事が一番大事なわけじゃない…でもクビになるわけにはいかないんです…」©椎名チカ/小学館

「仕事が一番大事なわけじゃない…でもクビになるわけにはいかないんです…」お母さんだって苦しい。©椎名チカ/小学館

駒崎さんに伺いたいんですけど、生活のためだけに働いているのではなくて、仕事をしたくて、仕事が楽しくて働いている人っていますよね? 私もそうですし、同じように育児をしながら働いている私の担当編集者さんもそうなんですね。でもそのことにちょっと肩身の狭さも感じる。子供との時間を削って仕事をしているんだって思われている気がしちゃうんですよ。こういう働き方について駒崎さんはどのようにお考えですか?

駒崎 僕は、妻には義務ではなく、楽しんで働いていてほしいと思っています。妻は公務員なので、部署によっては仕事の内容が非常に面白くないこともあるらしいんですよ(笑)。そんな時って普段もなんだかドヨーンとしているんですよね。一方で、妻は地域活動にも積極的に参加していて、育休からの復帰を支援するワークショップなどにボランティアで参加しているのですが、すごく楽しそうなんです。地域のママを集めてミーティングしているときは生き生きとしている。やっぱりドヨーンとしている妻と生き生きとしている妻だったら、後者のほうがうれしい。

子供との時間がある程度削られてしまうとしても、その分は僕が見ればいいですし、あるいは行政のサービスに頼めばいいと思う。母親だけが子供のことを見ていなければいけないという価値観って完全に幻想でしょう。

そもそも母親だけが育児をしていた時代って日本の歴史の中でほとんどないんですよ。ずっとおじいちゃん・おばあちゃん、おじ・おば、近所の人など、複数の他者が関わって子供が育ってきたんですね。「複数子育て制」みたいなものがあった。でも、戦後から現在のたかが数十年間だけ、「母親単独制」になっている。そこから、フローレンスのような病児保育であったり、行政のサービスであったり、あるいは近所の方であったり、いろいろな人が関わっていく育児に変えていくのはまったく後ろめたいことじゃないと思うんです。夫も妻も生き生きと暮らせる状況のほうがいいに決まってるじゃないですか。だから肩身の狭い思いなんてしなくていいと思いますよ。

椎名 ありがとうございます。

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