―― 社内スタッフを対象とした履歴書・就業規則はスムーズかつスピーディーに変更されています。一方、フローレンスのサービス利用者である園児や保護者について触れている「LGBTなどの性的少数者が利用しやすい『環境作り』について」も提出されていますが、これはどういうものでしょうか。
明智 フローレンスは保育現場に出ている現場スタッフとオフィスで働く本部スタッフに分かれています。働きやすい職場つくりのための提案書は全スタッフを対象にしたものでしたが、『環境作り』の提案書は現場スタッフに提案する内容となっています。
フローレンスを利用する園児や保護者にも当然、LGBTなどの性的少数者がいるはずです。そうした園児や保護者にとっても利用しやすい環境にするためには、現場スタッフが、園児・保護者にLGBTなどの性的少数者がいることを想定した案内ができるようにならなければいけない。そこでこの「LGBTなどの性的少数者が利用しやすい『環境作り』について」を提出しました。
保育現場において性の自己形成期にある子どもの多様な性別表現を保証する保育を行うためには、本部スタッフと現場スタッフが共に性的マイノリティへの理解を深めていく必要があります。一回の研修で充分に浸透するものでもありませんし、時間を掛けながら徐々に形成していく必要があると思っています。
LGBTの問題に取り組むことは、働く人すべての働きやすさに繋がる
―― 「働きやすい職場づくり」というテーマにおいては「女性の働きやすさのことを解決できていない状態で、LGBTのことには取り組めない」という意見もありますが、その点について明智さんはどうお考えですか。
明智 女性の割合は、LGBTなど性的少数者の割合と比べれば当然高くなります。企業が、該当者の多いほうから取り組んでいくのは当然のことだと思います。
一方で、フローレンスは女性の働きやすさを追求している団体です。これまで女性の働きやすさについてはいろいろな取り組みを続けてきました。そんなときにLGBT当事者の私が入社したことで、フローレンスが掲げている「働き方革命」を推進するために次はLGBTのことかなっていう雰囲気になりました。
もちろん理想は、困っている人が居たらそこから取り組むこと。今回の就業規則の変更に「同性婚」だけではなく「事実婚」が追加されている理由も、実際にフローレンスに事実婚のスタッフがおり、以前から要望を受けていたからです。LGBTの問題は他の問題と根は同じ。LGBTの問題にアタックすることは、働く人すべての働きやすさに繋がると考えています
経営戦略として企業がメリットを感じれば取り組む企業は自然と増えていく
―― 今回の就業規則変更は、女性の働きやすさに対して真摯に向き合ってきたフローレンスだからできた、と言える側面もあるかと思います。今後、他企業が同様の取り組みをしていくにあたり、どのように進めていけば上手くいくでしょうか。
明智 下(スタッフ)からではなく上(企業・人事)から制度を変えていくべきだと考えています。私の場合は入社時からカミングアウトをしていたため、自ら提案書を出しましたが、カミングアウトをしたくないという人も大勢います。LGBTに取り組むことはデメリットよりメリットが大きいと気付いた企業側から、取り組んで欲しい。そして、職場の中でLGBTへの知識や理解が広がっていけばカミングアウトできる当事者も増えていくのではないでしょうか。
―― LGBTに取り組むことはメリットのほうが多い、ということでしたが、どのようなことが企業のメリットになりうるのでしょう。
明智 特にグローバル企業の例になりますが、人種・宗教だけでなく性的少数者のことにも配慮をし、働きやすい職場だと提示することは人材確保の面で有利になります。また、人権問題という面でも企業のイメージアップに繋がります。
経営戦略としてダイバーシティを推進することに価値を見いだせれば、どの企業も積極的になります。まずは推進できる企業が推進し、推進している企業が多数派になれば、社会の流れは一気に変わるでしょう。まずはフローレンスが成功モデルになり、広げていければと思っています。
フローレンスではLGBT以外にも様々な個性や生活のポリシーを持つ人が「働きやすい!」と思える職場を目指しています。また明智さん自身も、LGBTに限らず、さまざまな問題に取り組んできました。すべての問題は根っこで繋がっています。人種・宗教と同じ様に、LGBTなど性的少数者への理解を深める企業は、時間は掛かるかもしれませんが確実に増えていくでしょう。
(聞き手・構成/此方マハ)
明智カイト(あけち・かいと)
認定NPO法人フローレンス所属のロビイスト。主に「子ども」「女性」「マイノリティ」の権利擁護や政策提言を行う。自身も中学生の時にいじめを 受け、自殺未遂をした経験から「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を中心に行う。2012年の自殺総合対策大綱の見 直しでは、「性的マイノリティ」も自殺対策の対象に含めるように政府に対して働き掛けを行ってきた。国際連帯税の導入や、休眠預金の活用について も提言している。カラフル連絡網(全国LGBT活動者の会)呼びかけ人、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー。
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