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『東京タラレバ娘』と『地獄のガールフレンド』まるで異なるアラサー独身女性の描き方

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地獄にも安寧の場所はある

 鳥飼茜の『地獄のガールフレンド』(講談社)も、女が3人集まってあれこれトークに華を咲かせる、という点では『タラレバ』と似ている。しらさぎ市という架空の街に住む3人の女たちが、一軒の戸建て住宅でルームシェアをするあらすじだ。しかし登場人物の年齢はバラバラ、共通点は“友達がいない”こと。そして彼女たちは「地獄に生きている」ことに自覚的であり、そこがタラレバ3人娘との決定的な違いだと思う。

 31歳シングルマザーでイラストレーターの加南(とその息子4歳)、28歳マジメ事務OLでセカンドバージンの悠里、36歳この家の主で服飾デザイナーの超モテ子・奈央。

 加南は好きな男性と相思相愛で結婚し、「もう孤独を感じることは一生ないんだと思って心満たされた」。子供ができて出産し、フリーのイラストレーター(=個人事業主)として働く彼女は、子育てのメイン担当者となった。息子は保育園に預けるようになったが、家事育児の負担は少なくなく、思うように仕事の営業活動ができない。保育園では“愛情たっぷりの子育てがお母さんの大事なお仕事”と暗に言われ、“お父さんは……?”と疑問に思う加南。そんな疑問をストレートに伝えても夫は取り合わず、「加南のほうが収入が少ないんだから、家事と育児を多めに負担するのは当たり前だろ?」と返される。加南はやがて夫に愛情を持てなくなってしまったのだろう、彼女から離婚を申し出て、息子が4歳のときに離婚が成立した。

 彼女の離婚理由を「わがまま」と糾弾する人はいるだろう。もしネット上のどこかに彼女がこの顛末を書き記したとしたら、「やむをえない理由ではないですよね」「覚悟が足りなかったのでは?」「お子さんがかわいそうです」など、批判的な意見が寄せられることが想定される。しかし加南は離婚してから「自分の人生が楽しい」と感じている。仕事は好きだし子供は可愛いしもう家で夫に気を使わなくていいし。

 悠里は短大を卒業して一般企業に就職し事務作業中心の仕事をしているが、初めての恋愛が不倫で、その男と別れてからは一切恋愛がない。長く住んでいた賃貸アパートが取り壊しになり、ルームシェアの話にのる。彼女は「誰にも迷惑をかけず、早く死にたい」と考えている女性だ。母とか嫁とか、「誰かのために生きる」使命感を持っている女性たちを心底忌み嫌っている。だからといって加南と折り合いが悪いわけではなく、互いの事情に踏み込みすぎず、洗濯や料理をそれぞれ助け合うなどしてうまく共同生活をやっている。悠里は他人にも自分にも厳しい性格に見える。3人の中で一番若いが、もっともキャピキャピ度は低く、不機嫌に見られやすいタイプなので「若い女って括られると損する」と感じている。完全に男嫌いだったり男性不信というわけでもなく、性的欲求はある。酒好き。料理上手。同じ作者の『先生の白い嘘』の主人公・美鈴先生に近いキャラクターと言えるかもしれない。

 家主の奈央は、若い女性に人気の洋服を手がける服飾デザイナーだが、キャリアウーマン風ではまったくない。好きなことを仕事にして、好きなように遊び歩く。嫌いなものは掃除と洗濯。嫌いというか極端に不得意なようで、おそらく実家と思しき一軒家にひとりで住んでいたがゴミ屋敷状態だった。ひとりで住むには広い家だし掃除洗濯能力が乏しすぎるため、ハウスキーパーを雇うなどの選択肢もありそうだが、「せっかくだからルームシェアをすればいい」「好きでも嫌いでもない感じの女の人みつけてさ、好きでも嫌いでもない距離で生活しなよ」とアドバイスされ、実行に移す。

 奈央は男性とはすぐに恋愛関係になってしまう(好意を持たれてしまううえ基本的に断らない)し、女友達もあまりいない。女同士の格付けを一切気にしない性格で、他人と自分の比較もしないので、“変人”扱いされて同性から敬遠されてきたタイプかもしれない。男をとっかえひっかえしているように見える(実際そうなのだが)彼女であるが、愛され願望が強いわけでもなく、ただ気持ちよく楽しく生きていきたいだけだ。他人への「愛してほしい」期待をそもそも抱かないように出来ているようで、男に関心を持っていないから男に対して怒りや失望を表明することもない。そこが「優しい」「何でも許してくれる」ようにも見え、結果、超モテる。ただ彼女は「男より自分の方が100万倍好き」なだけなのである。

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