「いい人材が欲しい」企業がやるべきこととは NPO法人 虹色ダイバーシティ代表・村木真紀さんインタビュー

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何気ない一言がセクハラになる

――性的マイノリティが居心地いいと感じる環境はどのようにつくればいいのですか?

村木 とにかく一人一人がセクハラへの「感度」を上げることですね。男女に関するセクハラは、白黒つけられないグレーゾーンの事象が多いと思いますが、当事者たちは非当事者よりセクハラに敏感な人が多いと思います。同性同士のセクハラといえば、テレビの中では、いわゆる「オネエタレント」が男性タレントにセクハラ行為をして、笑いをとっている場面をよく見かけますが、現実の職場にはそんな事例は少ない。むしろ性的マイノリティ当事者が周囲からのセクハラの対象となってしまうことのほうが圧倒的に多いと思います。

たとえば、「ホモ」、「オカマ」、「オネエ」という言葉は、ゲイやトランスジェンダーに対する蔑称と感じる人も多いので、安易に使ってはいけません。また、「宴会芸として男性従業員に女装やオネエタレントのまねをさせる」なんてこともよくありますが、嫌な気持ちになっている人は多いと思います。

また、日常会話の中の何気ない一言が性的マイノリティにとっては苦痛に感じることもあります。たとえば、「結婚はまだなの?」「子どもは考えてる?」「どんな異性がタイプ?」「好きな芸能人いる?」といった結婚・子育て、恋愛に関する質問は、私たちのアンケートでも嫌だという人が多かった項目です。

それから、オネエタレントの話題として、「ああいうのって生理的にムリ」「うちの職場にはそういう人はいないよね」と言うこともよくあります。そのタレントさんに対してどういう感想を持つのかは各人の自由だと思いますが、同じ属性を持つ人たちを一括りにして話すのは、問題だと思います。国籍や障害について同じことをしたら、それは差別だと言われる話ですよね。カミングアウトしていない当事者がこんな話題を見聞きすると、「やはりここでは決して言えない」と思ってしまいます。

「その人個人を攻撃している訳でもないのに、そんな日常的な話題で傷つくなんてナイーブすぎじゃない?」と思う人もいるかもしれません。しかし、当事者は毎日のようにこうした話題に接していて、たとえ小さな傷でもそれが癒える間がないのが現状です。普段から我慢を重ねていて、何かがきっかけになって気持ちが溢れてくるのだと理解してください。当事者のナイーブさの背景には、日本社会の強固な性別役割分業や同性愛嫌悪などがあることを理解する必要があります。

――「性的マイノリティのことを理解したい!」と思った人はどうすればいいですか?

村木 「自分は、性的マイノリティの友人たちも楽しく働ける職場にしたいと思っている」ということを是非周囲に宣言してほしいですね。こうした理解者・支援者のことを英語でALLY(アライ)と言います。性的マイノリティに関する差別的発言があればすかさずツッコミを入れたり、机の上にレインボーグッズを置いてみたり、名札に「アライ宣言カード」を入れてみたり、さまざまな方法で自分がアライであると表明することができる。それだけでも、みなさんの周りにいる当事者たちは心が楽になるはずです。

――当事者自身が追い込まれる前に、何かできることはできないのでしょうか?

村木 個人的に信頼できる友人や同僚を増やしていくことですね。職場にアライがいると感じている人は勤続意欲が高い。性的マイノリティに対する理解はどんどん進んでいますから、保守的だと感じる職場でも、誰か一人くらいは分かってくれる人がいるはずです。性的マイノリティに関するニュースが話題になった時に、肯定的に反応している人を探してみてください。最近の世論調査の結果では、同性婚に対する意見も、実は賛成の方が多い。当事者側も「誰も理解してくれるはずはない」と思い込んで、自分で周囲との間に壁をつくっていることがあるのではないかと思います。

優秀な人材を確保するためには、性的マイノリティ施策を進めたほうがいい

――性的マイノリティのために企業ができることはないのですか?

村木 ひとつは「差別禁止の明文化」ですね。経営層が「性的マイノリティを差別してはいけない」と宣言するだけですから、一番取り組みやすいはずです。例えば、「ゲイであれば、家族を養う必要はないだろう」とずっと昇進させてもらえない例や、男性従業員が「心は女性なので、職場でも女性として扱ってほしい」とカミングアウトしたときに「分かった。ただし、これからは女性の給与で働いてほしい」と給与を減らされてしまった例なども聞きます(男女で給与が違うのはそもそも労基法違反です)。

――幾重にも差別が重なっていますね……。

村木 ええ、このような事例が報道されれば、企業のイメージとしても良くないですよね。逆に性的マイノリティへの差別禁止を打ち出せば、企業イメージは上がる。国際的な人材獲得競争の中で、差別禁止の明文化はもう最低ラインなのではないかと思います。

そして、次は、人事担当者や管理職が研修を受けて、性的マイノリティに関する基礎知識を身に付け、社内の当事者にしっかり対応できるようにすることですね。

――村木さんの「虹色ダイバーシティ」では企業向けに性的マイノリティに関する研修を行っているんですよね。

村木 はい、大体90分から2時間くらいの社会人向けの研修を行っていて、昨年は100件以上受注しています。そのノウハウを詰め込んで、今年、「職場におけるLGBT対応ワークブック」をつくりました。「性的マイノリティってどんな人たちなの?」、「なにがセクハラや差別に当たるの?」、「性的マイノリティのお客様や従業員にどんな対応が必要なの?」という素朴な疑問に応える内容になっています。

――なるほど。「虹色ダイバーシティ」の研修を受けることで、本で読むような基礎知識だけでなく「性的マイノリティ対応の応用力」を学ぶことができるわけですね。

村木 はい。おかげさまで非常に好評です。本当はみなさんに私たちの研修を受けてほしい。ただ、性的マイノリティへの関心の高まりもあり、とても多くの企業からご依頼をいただいているため、私たち「虹色ダイバーシティ」だけではすべてをお受けすることが難しい状況なんです。

「なかなか受講機会がないが、すぐに動き出したい!」という方は、是非、7月に出版する著書『職場のLGBT読本: 「ありのままの自分」で働ける環境をめざして(仮)」(実務教育出版)を読んでみてください。また、最近は性的マイノリティに関する講演会が全国で行われていますから、いくつかの団体の話を聞いてみるのもおすすめです。それから、既に何からの施策を行っている先進企業に話を聞きに行くという手もありますね。

――村木さんから見て、「ここならば信頼できる」という支援団体や企業はありますか?

村木 当事者支援の団体で、当事者の声を直接聞く現場を持っていて、かつ、講演も行っているのは、大阪の「QWRC」、横浜の「SHIP」、愛媛の「レインボープライド愛媛」などですね。最近はLGBT支援をうたった様々な団体や企業があり、残念ながら、なかには「それって本当に大丈夫なの?」というところも出てきています。LGBTに関する講演の質の「目利き」はなかなか難しいですが、複数の講演を聞きに行くと、信頼のおける情報を発信しているのはどこか、ある程度見極められるのではないかと思います。

もちろん、性的マイノリティ対応は大企業でなくてもできます。例えば最近ニュースになったのは「認定NPO法人フローレンス」です。病児保育を行うNPOですが、代表が性的マイノリティをしっかり理解・支援していて、当事者の従業員が声をあげ、福利厚生もしっかり整備しています。大企業でなくてもここまでできる、という素晴らしい事例だと思います。また、金融業界には「LGBTファイナンス」という企業の性的マイノリティ対応担当者の集まりがあり、ここでは各社が互いに学び合う環境ができています。

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