「いい人材が欲しい」企業がやるべきこととは NPO法人 虹色ダイバーシティ代表・村木真紀さんインタビュー

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――性的マイノリティの方々は企業に対してどのような協力を望んでいるのですか?

村木 私たちの行ったアンケート調査では、60%以上の当事者が「福利厚生で同性パートナーを配偶者として扱うこと」を望んでいます。福利厚生などの社内規則を変えるのは、組合や役員への説明も必要で、なかなか大変な手続きになりますが、先進企業では徐々に事例ができてきています。

トランスジェンダー当事者は「性別移行などへの配慮」を強く望んでいます。現状、ほとんどの企業では、誰かがカミングアウトしてきたら、その人に個別に対応しています。しかし、それでは人事や直属の上司の価値観によって、対応が大きく変わってしまう恐れがあります。企業として、「働きながら性別を移行することを会社として支援する」というメッセージを明確に出す必要があります。そうしないと、せっかく育てた人材が「自社で性別移行は無理だろう」と勝手に判断して仕事の継続を諦めてしまいかねません。

また、意外かもしれませんが、性的マイノリティのイベントへの協賛を求めている当事者も多いです。社内の人間には関係ないと思うかもしれませんが、「イベントへの協賛=対外的に性的マイノリティ支援を宣言する」というメッセージになるのです。福利厚生などはカミングアウトしないと使えないこともありますが、カミングアウトしていない当事者にとっても、会社としての支援メッセージは心強く、嬉しく感じるのではないかと思います。

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――企業内に性的マイノリティ向けの相談窓口や職場内グループをつくるという手は?

村木 もちろん、ないよりはあったほうがいいです。しかし、非当事者が思うより、性的マイノリティ自身はまだそんなにニーズが高くない、というデータがあります。「相談窓口などを利用すること=カミングアウトすること」になってしまうのでは、と思うからです。家庭や友人にもカミングアウトしていない人が多い日本で、職場でのカミングアウトは非常にハードルが高い。まずは、人事担当者などが性的マイノリティに関する研修や勉強会を行い、そのことを全社員に発信していくことで、「この人たちならば相談しても大丈夫」という当事者の信頼を獲得していくのが大切だと思います。

――企業が性的マイノリティ施策をやるメリットはあるのですか?

村木 ひとつは社員の勤続意欲が上がるということです。アンケートを分析すると、性的マイノリティ施策のある企業に勤めている人のほうが勤続意欲が高い。つまり、ここで頑張ろうという意欲になるのではないかと思います。

また、グローバル化が進む中では「性的マイノリティについて知らない」ということ自体が、コンプライアンス上のリスクとなることもあります。たとえば、世界には同性愛が違法とされる国があります。最悪は死刑です。そうした国にゲイの社員を派遣した場合、企業はその社員の身の安全を守らなければいけない。逆に同性婚が認められている国では、同性パートナーをちゃんと配偶者として扱わないと、差別だと訴えられてしまうかもしれません。企業は、関心がないではすまない状況になっているのです。

性的マイノリティは全人口の数パーセント程度と言われています。たしかにマイノリティではありますが、20人以上の企業なら1人はいるくらいの人口割合です。その1人にまでしっかり配慮できる会社というのは、社員全員が働きやすい会社になるのではないかと思います。

――企業内向けの施策だけでなく、小売業やサービス業では性的マイノリティのお客様向け施策も考えられますよね。

村木 その通りです。性的マイノリティに配慮できる企業は、消費者としての目線から見ても印象がいい。われわれのアンケートでは「消費者として、企業がLGBTフレンドリーであることを重視する」と答えた人は60%を超えます。

――お客様向けの施策は具体的にどのようなものが考えられますか?

村木 たとえば、アンケートや申込フォームの性別欄を「男・女・その他」にしたり、カップル割引の対象に同性カップルも含めたり、といったこと。また、「奥様、旦那様」ではなく「ご同居の方、パートナー、お連れあい」と言うなど、お客様が自ら表明しないうちは、できるだけ性別や関係性を問わない言葉を使う、といった、新しい接客マナーを現場に浸透させる必要があります。

ただ、消費者向けの施策ばかりアピールすると、「性的マイノリティで金儲けしようとしている」といった反発をうけることになってしまいかねないのが難しいところです。イジメや自死などのハイリスク層であるという社会問題にも配慮しつつ、従業員向けの施策とお客様向けの施策の両方をバランス良く推進し、本当に「ダイバーシティな企業」にならなければ、当事者の評価は得られないと思います。

――現状で性的マイノリティ施策が進んでいるのはどんな企業ですか?

村木 施策に取り組むのは、2、3年前はほとんど外資系企業やグローバル企業だったのですが、最近は製造業、エネルギー、通信など、老舗の日系企業にも広がってきました。私たちのクライアントは、たまたま大企業が多いですが、中小企業が遅れているかというとそうでもありません。中小企業の場合は社長に理解があれば、とんとん拍子に施策を進めることができます。

実は、職場でのカミングアウト率は大企業よりも中小企業のほうがやや高い。これは想像ですが、大企業だと従業員全員の顔が見えるわけではないし、異動もありますから、今は良くても次は理解のない人と仕事をする事態になるかもしれない。そのリスクを考えると、カミングアウトするメリットより、リスクのほうが大きいと判断してしまうのかもしれません。その点、中小企業であれば、ほぼ全員の顔が見えるので、上層部が支援的でさえあれば、カミングアウトしやすいのかもしれません。

今、中小企業は人手不足に喘いでいます。私は、「いい人材が欲しい」と言っている中小企業ほど、性的マイノリティ施策を進めるべきだと思います。当事者たちは自分らしく働ける場所を切実に求めています。大企業や他社がこの問題に気づいていなかったり、まだ二の足を踏んでいたりする、今がチャンスです。早くやればやるほど、性自認や性的指向によらず、よい人材を集められる可能性が高まると思います。

――最後に一言お願いします。

村木 「性別」は、自分で思っている以上に、根源的なものです。私だってパッと見て相手の性別を判断してしまうことは多い。だからこそ、「それに当てはまらない人もいる」という知識を持つ必要があるんです。その知識は、残念ながら、日本の学校では習いません。だからこそ、職場での教育がとても大事な分野なのです。

是非これをきっかけに、性的マイノリティについて興味を持ってください。会社や同僚が性的マイノリティを理解し、支援する気持ちを表明してくれたら、「ここでがんばろう」という気持ちになる当事者も増えるでしょう。それは会社にとっても、社会全体にとっても大きなプラスとなります。ためらわずに、当事者以外の人から、声を挙げてほしいと思います。
(聞き手・構成 雨井千夜子)

村木真紀(むらき・まき)
特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ代表。1974年茨城県生まれ。京都大学卒業。日系大手製造業、外資系コンサルティング会社等を経て現職。LGBT当事者としての実感とコンサルタントとしての経験を活かして、LGBTと職場に関する調査、講演活動を行っている。大手企業、行政等で講演実績多数。2015年 「Googleインパクトチャレンジ賞」受賞。関西学院大学非常勤講師、大阪市人権施策推進審議会委員。第46回社会保険労務士試験合格、事業場内メンタルヘルス推進担当者養成研修会(通常コース、アドバンス・コース)修了。

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