「人が死ぬかどうか」が規制強化の分岐点。安全のためには何をすべきか
寺谷「五輪に向けて摘発や規制が強化されるとすれば、その分岐点は『人が死ぬか死なないか』です。
『歌舞伎町浄化作戦』と呼ばれる、2004年から行われた大規模な違法店舗の摘発も、きっかけは、ぼったくり店から逃げようとした青年が誤ってビルから転落し死亡した事件だとも言われています。
人を死なせないためには、ある程度場のコントロールを行うことが求められる。見えない場所で何が起きているのか。例えば、どこでぼったくりが行われているのかを知っておく必要があります」
開沼「性風俗の主流が箱ヘル(店舗型のファッションヘルス)からデリヘル(非店舗型のファッションヘルス)に移り、街の風景から消えました。そうやって、色々なものがどんどん見えない様になっていますからね」
寺谷「ただ、気をつけなくてはならないのは「可視化=安全」ではないということです。性風俗産業のすべてを可視化して、誰でもアクセスできる様になったから歌舞伎町が安全になるのかというと、それは全く別の次元。
可視化すべきところと、可視化する必要がないところがあると思います。
キャストがお店で使う名前は本名でなく源氏名でいいし、『行政さん助けて下さい』という要望があれば、その要望の具体的な内容を明らかにする。税金なども可視化すべきもののひとつですね。
現状は可視化すべきものとすべきでないものの区別ができていません。求められるのは、メディア的な可視化ではなく、行政や警察に対する経営の可視化です」
まだ話題になってないからこそ出来る事がある
「可視化すべきものを可視化する」。これは五輪の開催有無を問わず、繁華街の生存に求められることだ。性風俗産業の「五輪」による影響はまだ表面化していないように見受けられるが、少なくとも、五輪の開催決定により、これまでも存在してきた課題がよりはっきりと浮かび上がるのは間違いない。
では、性風俗産業は可視化すべきものを可視化するためには何が必要とされているのか。
角間「性風俗のことを語る人は、エロ界隈と社会学を齧ってる人界隈に偏り過ぎています。だからこそ理系的な文脈でお話が出来る人は面白い。
性風俗店の中には、未だに勤怠管理を紙と手でやっているところも多いんです。例えばそこに勤怠管理システムを構築し、多数の店舗が同様のシステムを使用する様になれば情報も自ずと集まり、可視化すべきところが可視化されることもありうる。ポケットにはみんな、スマートフォンが入っています。そこを上手く繋げるだけで性風俗産業は随分と変わってきますよ。
また、キャストが客の家やホテルに赴くデリバリーヘルス型の性風俗店は、インターネット上でのキャストの写真掲載が当たり前です。しかし、性風俗業界は辞めた・辞めてないの線引きがあいまいなため、自然と写真の扱いが雑になります。ここにきちんと写真を管理できるシステムがあれば、性風俗産業で働いていたことを公にされることや、リベンジポルノなどが避けられるようになります。
いま、性風俗産業はアマチュアではなく、プロフェッショナルが求められる時代になりました。ITやマーケティングなど、世の中の色々なノウハウを夜の世界に持って来て欲しいです」
性風俗業界は「横の繫がりが弱い」と言われることもある。勤怠や写真データの管理など、ITによる「仕組み作り」が活発になれば、店同士や働くキャスト同士の繫がりを生み出していく。横の繫がりが生まれ、業界がまとまれば、五輪によって何か変化があったときに、すばやく議論・対策を生み出すことが可能になる。
東京五輪まであと5年、まだ時間があるうちに業界が足並みを揃えて協力体制を築くことが、将来の性風俗業界を安全かつ盛況にしていく鍵であるかもしれない。
逆に言えば一つにまとまることこそが、性風俗業界にとって東京五輪の最大の効用になるだろう。
最後は、セックスワーク・サミットの運営元である一般社団法人ホワイトハンズ代表の坂爪真吾氏の言葉で締めくくりたい。
「五輪によって吉原が消滅するだとか、逆に都知事が変わらない限り締付けは変わらないだとか、あらゆる憶測がなされています。しかし、重要なのは予想よりも議論。そして議論すべきは、是非論でなくデザインのあり方です」
まだ東京五輪の開催が、性風俗業界に大きく作用しているとは言えないが、だからこそ「どうなるのか」を予想するのではなく「どうありたいか」を各々が考え、議論していくことが必要である。
(文・構成/此方マハ)
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