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近年さまざまなメディアで「性」と「貧困」の関連性が取り上げる機会が増えつつあるものの、「現場」の実態が語られることは多くありません第6回「世界性の健康デー」で開催された「性の健康から考える日本の貧困」ではそれぞれに「現場」を持つ3名が、主に子供たちを取り巻く「性」と「貧困」について語りました。モデレーターは女性の生き方や男女関係について執筆している、フリーライターの亀山早苗氏です。(以下、敬称略)
現場(1) 若い子の相談から見えてきた人間性の貧困
亀山 まず、登壇者の皆さんの「現場」について、自己紹介も兼ねて聞かせてください。
藤田 生活困窮者支援NPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典と申します。『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)を6月に出版しました。この本では高齢者に焦点を当て、日本の貧困問題を明らかにしていこうという内容になっています。
私に今日与えられたテーマは書籍とは異なり、「若者の貧困がどれくらい性に影響を与えており、貧困状態にある若者がどのくらい苦しんでいるのか」だと思っています。「ほっとプラス」はさいたま市見沼区に拠点があり、年間約300人の生活困窮者が相談に来ます。年齢層は10代から80代まで幅広いですが、多くの方が60代くらいから生活に困窮して来られます。しかし相談者の中には10代から20代の若い子もいます。
以前は、このような若い子が相談に来ることは滅多にありませんでした。しかし最近は、河川敷に住んでいたり、友達の家を点々としたりする若い子が相談にきたり、ホームレス状態にある大人が「どうにかしてやってくれ」と連れてきてくれることがあります。若い子の相談件数は年間約10件を超えるようになりました。
私たちはホームレス状態にある方のためのシェルターを持っているので、このような若い子たちから相談を受けた時も一時的に受け入れて、生活保護や出産扶助の申請をしています。家族の元に戻る方法や、戻れない場合は次の生活先を探すことも、併せて考えます。
相談に来る若い子たちが増えるに連れて、その子たちの生育歴が徐々に見えてくるようになりました。10代の相談者は家出少年・少女と言われる子供で、多くが児童養護施設出身だったり、高校を中退していたりします。家族機能が無かったという場合が非常に多い。
また、女の子の場合、風俗関係の仕事や友人宅を点々としているなかで「食事とベッドを提供してくれる」男性と出会い、性の搾取の対象として身を投じながらも命を繋いでいるという話も聞きます。親の元よりも安心だという場所があったら、犠牲を払いながらでもいるでしょう。本人が悪い訳ではなく、他に依存できる場所が無いんです。
「家出少年・少女」は補導されると家に戻されます。しかし彼ら彼女らは経済的貧困に加え、人間関係の貧困(社会的貧困)に陥っているため、家に居場所がない。だから家出を繰り返し、徐々に警察などに見つからない場所に行くようになります。こうして子供たちがたどり着く環境はどんどんアングラ化していきます。子供たちに必要なのは、搾取されない新しい居場所、そして家族機能の一部を代替できる場所。これを大人が一緒に探さなくてはいけない。気軽に悩みや辛さを相談できる場所が地域に無いと、子供たちの置かれた状況は何も改善できません。
「ほっとプラス」に相談しに来る若い子たちのように、性の搾取の対象として自分の身を投じなくてはいけない子供が今もたくさんいます。私たちはそのような若い子には、さまざまな社会制度を使いながら一緒に生活を立て直していこうと取り組んでいます。しかし世間一般の見方は厳しく、「どうして若いのに生活保護を利用するのか」という声が多い。そのような批判的な声が若い子の自立を阻んでいるのが現状です。
私たちの現場を通してお伝えしたいのは、相談に来る人は氷山の一角だということです。多くの人は支援に結びつきません。「本当はどんな支援が必要なのか」というところから考え、社会が幅広い貧困問題の構造を考えていけたらいいと感じています。社会福祉はこの若者の性や貧困に関して対応が遅れており、大きな危機感を有しています。