現場(2) 性に関する知識の有無が、子供たちの状況を変える
秋元 岩手県から参りました、産婦人科の秋元義弘です。岩手県にある私の産婦人科は、半径70キロ以内に他の産婦人科がありません。だからその地域で妊娠している人は私がすべて見ることになります。そのため地域の実態が全部見えてきます。今日私がお話するのは、まさしく「『性』と『貧困』の問題は直結している」ということです。
まず「性」について、アンケートを元に話をしていきたいと思います。岩手県立大学看護学部が平成14年〜15年に行った高校生対象のアンケートによると、初めてセックスを経験した時期に関して多い回答は、中学校卒業する時の春休み・高校1年の夏。そして、「どうしてセックスをしたのか」という質問に対して女子の11.6%が「望んでなかったけど同意した・相手に嫌われたくないから」と回答しています。また、経験人数の平均は、男子の2.75人比べ、女子は3.24人。いざセックスをしてしまうと、経験人数は女子の方が多くなります。
また、好きな人に「Hしよう」と言われるときっぱり断れるのはわずか6%しかいない。その場になって「どうしていいかわからないけど、なりゆきに任せよう」という回答が52%。セックスをすることがどういうことなのか、どういうリスクがあるのかという知識が彼女たちにはほとんど無いんです。そのため正しい知識を伝えようと、中学校や高校で性に関する講演を行っています。
一方、相談を受ける場所として、金曜日の夕方に「思春期外来」というものを15年ほどやっています。相談に来るのは、例えば家庭の中に居場所が無くて、小学校の時から外泊を繰り返す女の子。そうした女の子は、コンビニで知り合った男性とラブホテルに行く。なぜなら食事とベッドがあって、頭を撫でて「可愛いね」と言ってくれるから。援助交際という形ですが、彼女たちにとっては「生活を作ること」そのものなんです。お金を貰ってセックスはできるのに、好きな人に告白することはできないという女の子もいます。
彼女たちに聞いてみると「ヤラハタ(セックスをしないでハタチになること)は嫌だけど、(セックスを)やってみたら何だコレ」と思うそうです。彼女たちが本当に欲しいのは、抱っこしてくれる人や、安心して眠れるベッドや食事なんです。
また、セックスをして4日経ってから「緊急避妊ピルを下さい」と来た子もいます。わたし自身は中学校の講演で必ず緊急避妊ピルの話をします。「72時間以内だったら妊娠だけは防げるから絶対においでね」と。その女の子は私が講演に行かなかった学校の生徒で、ネットで調べて私のところに来ました。繰り返しになりますが、性に関する知識があるか無いかで、彼女たちの置かれる状況は大きく変わるんです。
性に関する知識が十分ではなかった結果として、14歳以下の妊娠に占める中絶の割合は86.2%(平成25年人口動態推計、平成25年度衛生行政報告例)にもなります。私はどんな女性に対しても中絶を「一回はしょうがない。繰り返さないようにね」と言います。でも現実は、反復中絶が年々どんどん増えている(第6回男女の生活と意識に関する調査2012)。そして虐待の死亡数で多いのは0歳児で、加害者は実母のケースです。
岩手県も平成8年頃までは、全国で比べても10代の中絶率が高い地域でした。近年県全体でさまざまな取り組みをして、中絶の数は減ってはきました。平成25年のデータを見ると、10代の中絶数は減っています。しかし、かつて中絶率が高かった世代は、現在なおも中絶を繰り返していることがデータにより明らかになっています。そして今、中絶率が高かった世代の娘たちが、妊娠可能年齢になります。15、6歳で出産した子の娘は、やはり15、6歳で子供を出産する率が高い。
性にタブーの無い娘たちは自分の親と同じ様に、生活のあても無いのに産むことにためらいが無いんです。わたしはこれを、一種の「虐待の連鎖」と呼んでいます。私のところに「妊娠した」と飛び込んでくる女の子のお母さんたちもやっぱり若い。どうにかこの連鎖を断ち切ろうと、性に関する知識を子供たちに付けてもらおうとしているのが私の現場から見える現状です。