現場(3) 心理的貧困が、その他すべての貧困に繋がる
福島 福島哲夫と申します。本日は臨床心理学から見る性と貧困についてお伝えしたいと思います。ひとつめの現場であるカウンセリングオフィスは、マンションの一室で開業しています。相談者はホームページを見て直接申し込むか誰かの紹介です。
もうひとつの現場は、大妻女子大学社会臨床心理学専攻と大学院です。カウンセラー志望の学生は自らの悩みや心の問題を抱えている人も少なくありません。なかなか自分の悩みが解決されないままカウンセラーになろうという人もいます。学生の中には性被害を受けていたり性風俗に関わる学生もいます。私立大学に行けるわけですから、経済的状況はわりといいと言えるでしょう。でもうちの大学の学生で、家庭内での性被害にあったり性風俗に関わる人たちは例外無く家族との心理的な問題を抱えています。
私から見た「貧困」は、お金がないという「経済的貧困」だけではなく、孤立や依存などの「社会的貧困」や、自尊感や自己肯定感が欠如している「心理的貧困」です。私の専門は、この「心理的貧困」です。そして、望まない形での性の過剰や過小の「性的貧困」もあります。「過剰」も「満たされていない」という意味では貧困と言えるでしょう。これらの「貧困」がいつでもだれにでも訪れてしまう可能性があるのが現代の日本の深刻な問題だと感じています。
私が教えている学生たちと同様、カウンセリングオフィスに来る方も、自費負担なので経済的貧困に該当する人は少ない。しかし、性的貧困や社会的貧困を抱えている人がほとんどです。幼少期の性的虐待や性被害がトラウマになり、性の過小・過剰にもつながることもあります。知識の無さや世代間伝達だけではなく、トラウマも「性的貧困」に結びつくことがあるんです。これらは経済や社会状況に関係なく出現するものです。
私のところには、幼少期のトラウマによって不特定多数と関係を持つようになった女性や、家庭内ストレスからデートDVや風俗を経験した女子大生が相談に来ます。彼女たちは心理的貧困のために性的貧困に陥り、苦しい幼年期・青年期を余儀なくされています。
また性的貧困と社会的貧困をきっかけに、経済的貧困に陥る危険もあります。どの経済状態の人間にも、心理的貧困と性的貧困、社会的貧困は出現する。経済・社会的貧困が必ずその他の貧困に繋がるとは限りませんが、心理的貧困はその他すべての貧困の原因となりうると思われます。結論としては成人期までにしっかりと心理的に満たされる関係を持ち、心理的貧困を克服する必要があるということです。
では心理的に満たされるとは、どういうことなのでしょうか。
「喜び」「苦しみ」や「頑張り」を外部基準や他者比較ではなくて、本人の主観そのままで認められることが心理的に満たされるためにはとても大事です。また、自分はかけがえの無い存在だという非言語的なメッセージを十分に貰えること。そして、「自分を大切にすること」「嫌な時にはノーと言ってもいいこと」を教えてあげることも重要でしょう。
また、「生」と「性」と「聖」という3つの「せい」があります。これらは理屈抜きに大切にしなければならないし、本来大切にされるはずだということを言葉と背中で教えてあげること。3つめの「聖」は宗教的なことや、民族・アイディンティに関することを大切にすることです。この3つの「せい」は大人が教えていないのが今の日本です。ぜひこの3つを教える「せい教育を」教えて欲しいと思っています。