
登壇者の皆さん
学校での「性教育」に力を入れる方向に教育指導要領が変更された1992年は「性教育元年」と呼ばれています。それから約20年が経ち、性教育はどう変わってきたのでしょうか。また、10年後はどう変わるのでしょうか。「世界性の健康デー」東京大会プログラム:「未来の性教育」Next Generation Leaders’ Summit 2015で、性教育に携わる4団体の代表の話を聞きました。
登壇者は、セクシャルマイノリティに関する医療情報の提供や勉強会・イベントの開催をしているメディコロル代表の山瀬氏、学校では教えてもらえなかった性の情報を発信する学生団体・思春期保健委員会代表の内藤ゆりか氏、妊婦さんをゲストスピーカーにしたイベント等を開催している、ぱぱとままになるまえに代表・西出博美氏、中学や高校での出前授業や、セクシャルマイノリティについて考えるきっかけを作る活動などをしているSCORA (性と生殖・エイズに関する委員会)の齋藤惠理子氏です。モデレーターは、毎年50校の中学・高校への性教育講演に出掛けている産婦人科医の種部恭子氏です。(以下敬称略)
「過去20年を振り返る」と言っても、今回の4団体の代表者は全員30歳以下。前半は過去20年をクイズ形式で振り返り、後半は今後10年間でどうなるべきか話し合いました。
■機能しない家族 少年少女たちの貧困と性の健康に「ライフスキル教育」を
若者世代は知らない、日本の性教育の歴史
種部 本日のテーマは、教育指導要領が変更されてからのおよそ20年間を振り返ることです。ただ登壇者の皆さんは若いので、当時のことをご存じないと思います。そこで、20年間の性教育の過去や現状をクイズ形式で振り返りたいと思います。
※クイズ作成参照:「マンガでわかるオトコの子の性」(NPOピルコン 染矢明日香著)
(1)1992年の「性教育元年」のきっかけになったできごとは何か
①80年代に10代の間で望まない妊娠が増えた
②80年代にエイズが流行った
③80年代に高校生の売春が流行った
④妊娠について教える必要性が社会的に認識された
【正解:②】
種部 日本で初めてエイズ患者が報告されたのは1985年。子供たちにきちんと性教育をしてエイズの流行を止めなければならないという考えのもと、1992年に教育指導要領が改正されました。この年は「性教育元年」と言われています。
当時は、小学校低学年の時に「へそのおのはなし」といういのちを考える授業があり、高校三年生になると「(恋愛関係などの)関係性」を含めた話がなされました。各学年に応じてしっかりと性教育が行われていたんですね。学校の先生が一生懸命性教育について考え、性教育の方法論がとても進んだ時期でした。後々出てきますが今の性教育の現場は随分変わってしまい、振り返ると当時の話が「懐かしいですね」となってしまう状況です。
(2)2002年にある冊子が回収された出来事。その冊子の名前は?
①マンガでわかるオトコの子の「性」
②LOVE・ラブ・えっち
③思春期のためのラブ&ボディBOOK
④みんながしりたいピルのおはなし
【正解:③】
種部 「思春期のためのラブ&ボディBOOK」は、中学生を対象として無料で配布された冊子です。性行動の低年齢化や人工妊娠中絶、不測の事態の対応などが書かれたとてもいい本でした。ところが、この本のごく一部を取り出して「中学生にピルを飲ませるのか」「中学生の性行動を煽る」という批判を受けて、2002年に回収・絶版になってしまいます。
今見ても、全く古びておらず、子供たちが本当に知りたいことが書かれた素晴らしい内容です。内容が過激だという批判だけで取り上げられてしまったことで、性教育の現場が全体的に萎縮する方向になってしまったことは残念です。
翌年の2003年には、人形や歌を用いて性教育を熱心に行っていた東京都・日野市にある七生養護学校の教師が更迭される事件が起こりました。性交がどういう行為なのかがわからなければ妊娠や病気を防げません。また、被害に合った時にも言葉にできません。だからこそ性教育を行う必要があります。
例えば、目の見えない子たちに「性器」を教えるために、「頭があって顔があって、胸があってお腹があって、その下に性器があるよ」という「からだ歌」を先生方が作りました。また、「性器を触る嫌なタッチには『ノー』と言いましょう」とも教えたそうです。
しかしこうした性教育に対して、「人形を使ってセックスのHowToを教えており、過激な性教育だ」という批判が起きました。そして保護者や子供たちのニーズを踏まえて行われた性教育の授業は終わらせられてしまいます。この七生養護学校の当時の校長・教職員には、教育委員会による厳重注意処分が下されました。この処分に対しては元校長らが不当だとして裁判を起こし勝訴しましたが、勝訴判決に至るまで10年掛かりました。
現在、「性教育元年」当時に行われていたような性教育が学校でできるようになったかといえば、とてもそうとは言えません。性教育の方針がめまぐるしく変わったため、この20年間で一番苦労したのは授業をする側の学校現場だと私は思っています。
(3)学校で性教育をするときにNGワードになる場合のある単語はなにか。
①コンドーム
②月経
③出産
④性交
【正解:④、地域により①】
種部 「性交」という言葉は授業で使用したらダメなんですね。「教育指導要領に載っていない言葉は使ってはいけない」そうです。授業では「性的接触」と言わなくてはいけない。
またコンドームという言葉がNGなところもあります。コンドームの付け方は、とてもではないが学校で教えることは出来ません。コンドームは使い方を知ってなんぼだと思うんですけどね。使用方法が分からなくちゃ性感染症予防にも避妊にもなりませんから。
ここまでクイズで「性教育元年」からの20年間を振り返りましたが、性教育は、「性教育が出来る環境」から「出来ない環境」へと後退し、現実のニーズに即しているとはとても言えないのが現状だと私は考えています。