即物的な政治スローガンや、ただただ乱暴な雑誌広告を、素直に受け止めてはいけない。

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高市早苗「教科書から『従軍慰安婦』『強制連行』という用語が減ってなぜ悪い」(『正論』2005年3月号)
稲田朋美・片山さつき「韓国は叩け、さもなければつけ上がる」(『正論』2012年11月号)

 能川元一・早川タダノリ『憎悪の広告 右派系オピニオン誌「愛国」「嫌中・嫌韓」の系譜』(合同出版)は、右派系と呼ばれる雑誌がいかに乱暴な見出しを投じ続けてきたのか、その広告の約20年間分を考察する取り組みだ。なぜ広告に焦点を当てたかについて著者は「論壇誌を読む人よりも広告を目にする人の方がはるかに、それこそ桁違いに多いから」と語る。中吊り広告や新聞広告に記載される文言は、読者を刺激しようとするあまりに、差別的なワードを堂々と重ねている。不特定多数に撒かれるそれらの罵詈雑言、ただ見かけた人の中には「社会的に承認されている言葉」と捉える人も出てくるわけで、指を指された側の傷をいたずらに深めてしまう。

 『正論』『諸君!』『SAPIO』といった雑誌を定点観測すると、現在の安倍政権の主要ポストに鎮座する女性たちが、それらの雑誌でいかに重宝されてきたかがわかる。先に引用した見出しはあくまでも一例だが、歴史を修正し、隣国をバッシングする働きかけは、このように“女性を活躍”させながら強化してきたとも言える。本書の中でも、とりわけ「第7章 『ジェンダーフリー』の虚像と『親学』の虚妄」の章で伝えられる見出しの数々は噴飯ものである。

 前文に「性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現」と記した男女共同参画社会基本法が施行されたのは1999年だが、女性ジャーナリスト・岡本明子が「そして誰もが不幸になった 男女共同参画の10年」(『正論』2013年6月号)を「フェミという厄災」という特集に記せば、非嫡出子(婚外子)の法定相続を嫡出子の半分としてきた民法規定を憲法違反とする判決を受けて、西部邁・八木秀次「蠢動する家族破壊主義者たち 何サマや最高裁!婚外子・性転換『父』子裁判の浅慮と傲慢を糺す」(『正論』2014年3月号)と、嫡出子と同等の権利に正そうとする働きかけを「家族破壊主義者」と名付けてバッシングに励んだ。

 ついつい『正論』ばかりを引用してしまうが、2002年8月号の「フェミニズム批判大特集」では「『男女平等』に隠された革命戦略」とまで述べているのだから、否応にもそうなる。ジェンダーをフリーにする取り組みが「革命戦略」と規定されてしまうのだから、その時点で建設的な議論は臨めそうにない。『週刊ポスト』2013年6月18日号の広告にある「あぁ、もう一度だけでいい 20代を抱いて死にたい」との記事を受けて、「この広告を目にする若い女性は、職場の男性上司たちがどのようなまなざしで自分を見ているのかについて、深い疑念を持たざるを得ないでしょう」と記す著者の指摘は適確だ。この本を通読すれば、「女性に子育てを一任させたい」という働きかけを強めている主体の言い分がおおよそ把握できるだろう。

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