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安倍政権が「家族」を連呼する背景にある「親学」のトンデモっぷりに迫る

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突っ込みどころまみれの親学

 では、肝心の「親学」について見ていきましょう。今回は「親学」について知るために『家庭教育の再生 今なぜ「親学」「親守詩」か。』(明成社)を入手しました。

 「親学」とは何か。まずは「一般財団法人 親学推進協会」の主張を引用しましょう。

「親になるためにこれだけは学んで欲しいこと、それを伝えるのが親学です。親学という言葉には、『親としての学び』と『親になるための学び』の二つの意味が含まれています。
たとえば、親として、子どもの発達段階に応じてどうかかわったらよいのかといった大切なことを学びます。
それらは、知識やテクニックといった小手先の内容だけではありません。親が自分自身を見つめなおし、成長してもらうためのものなのです。」

 この文言だけではなんとも言いがたいですね。「親になるための教育論が親学」としか書かれていません。

 しかし、これまで何度も問題となってきたように、より具体的な高橋氏の考え方を見ていくと、それがいかにトンデモで危険なものであるかがわかります。

 例えば有名なのが、2012年5月に「親学推進議員連盟」によって行われた「発達障害を予防する伝統的子育て」をテーマにした勉強会です。ここでは、発達障害児の育児環境として「子供への声かけが少ない」、「発達障害児は笑わない」「予防は可能」など、「発達障害は育児の問題」だと受け取られかねない内容の発表が行われていました。当然関係者からの抗議が殺到し、議員連盟は後日陳謝しています。

 さてmessy読者ならすでに「またか」とお思いのことでしょう。そう、やはりここでも「伝統的」が使われているのです。「親学」では、「伝統的○○」を取り戻せば色んな問題が解決することになっています。変化する人の価値観や行動に合わせて社会をバージョンアップさせていくのではなく、社会の型に人を合わせるという発想を持っているのかもしれません。とにかく「伝統的子育て」によって発達障害が予防できるし、「伝統的子育て」が崩壊したから発達障害が増えた、と言いたいようです。

 『家庭教育の再生 今なぜ「親学」「親守詩」か。』の面白いところは、問題として指摘する諸々がいちいち的外れだということです。たかだか79ページの薄本なのですが、いちいち全部突っ込んでいるとキリがないほど、おかしな言説に溢れていました。いくつか紹介しましょう。

「新潟に合宿を行ったときに、東京生まれ東京育ちの小学生に星空を見せたとき、『空にじんましんができたみていで気持ち悪い』と言った。美しいものを美しいと感じることができない子供たちが増えているのです。」

 一面の星空を見て、何をどう思おうが人の勝手です。言うまでもないことを書かなくてはいけないことを嘆きたくなります。しかも、その上で、高橋氏はこんなことを書いています。

「筑波大学名誉教授の村上和雄先生は、遺伝子のスイッチのオン・オフという説を唱えております。遺伝子は誰の中にも存在している。ただ、それはある働きかけがないとスイッチがオンにならないのだと。つまり、美しいものを美しいと感じる遺伝子も、恥ずべきことを恥ずかしいと感じる遺伝子も幼少期の頃に、働きかけがなければ、スイッチがオンにならないまま大人になってしまうのです。」

 村上和雄氏は偉大な功績を残している科学者ではありますが、一方で「サムシング・グレート」というトンデモ科学を提唱しており、この「スイッチオン・オフ」についても多くの批判が出ています(ここでは詳細は省略します)。そういった権威を上手く利用して高橋氏は自説を「それっぽいもの」に仕立て上げているわけです。

 高橋氏は、いまの日本人は「利他的遺伝子」がスイッチオンになっていない、と言います。つまり、幼少期の育て方が悪いために、日本人の利他性が失われてしまった。伝統的な子育てが失われたために、脳の発達に悪影響を及ぼしている。「テレビなどを見ながら授乳していると、子供に電磁波の影響を与えている。これはある意味で虐待だ」とまで言っている。もう、いちいち突っ込みませんが。ちなみにここまででまだ冒頭15ページです。

 核心の部分に振れる前に、すでにかなりの文章量となってしまいました。次回も「親学」をより深く掘り下げて行きたいと思います。ちなみに、すでに長文となっていますがもう一点だけ。高橋氏は親心が衰退した理由を考える節において、「日本の伝統的子育ての文化が断絶してしまった」「高度経済成長以前、多くは三世代同居…『祖父母力』が生きていた」と書いています。三世代同居の住宅政策はここからきているのかもしれません。
(水谷ヨウ)

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