こんにちは、さにはにです。今月も、女性の生き方について考えるヒントを漫画から探していきたいと思います。よろしくお願いします。
今回ご紹介するのは「月刊モーニング・ツー」(講談社)にて連載中の『先生の白い嘘』です。作者の鳥飼茜先生は第39回講談社漫画賞に『おんなのいえ』(以上、全て講談社)がノミネートされるなど注目される作品を発表されている作家のひとりで、今回ご紹介する『白い嘘』は「このマンガを読め! 2015」第8位にランクインしています。
本作で描かれているのは、24歳の高校教師、原美鈴を中心にした教え子や友人との人間関係です。物語のテーマに据えられているのは性や暴力、支配と承認といったショッキングな内容なのですが、絵柄が清楚なので不思議と内容の割にはスラスラと読めてしまいます(とはいえ、直接的な暴力の描写もかなりありますので、苦手な人は要注意です)。重さと読みやすさの両方を備えた本作について萩尾望都先生は「暴力的なのに品が良い」と評されていますが、これ以上の言葉が見つからないぐらい実にその通りだなあと思います。
論点がたくさんあっていろいろな角度から読み込むことができる作品ですが、今回は主人公の美鈴と彼女が担任している高校生・新妻とのやりとりを中心に「支配」とは何なのかについて考えてみたいと思います。
セックスは誰のせい?
高校の国語の教師である美鈴は黒髪に白シャツというシンプルな服装をしており、性的に奥手であるウブな人物という印象を周囲に与えています。そんな美鈴は、「化粧をしろ」「恋人を作れ」と事あるごとに口出しをしてくる友人の美奈子の婚約者・早藤からレイプされた経験があり、早藤の横暴な性的欲求にその後も隠れて応じ続けているという秘密を抱えています。
普通に考えれば、早藤が加害者で美鈴は被害者です。しかし美鈴は自分自身を被害者と位置付けようとはしません。婚約者ではなく自分との性的関係に満足を得ている早藤の存在は、友人なのに自分を見下している美奈子に対する優越感を美鈴にもたらしていると考えているところがあり、この状況を嫌悪しながらもそこから得ているメリットに意識を向けています。性暴力に対峙する美鈴が自尊心を守ろうとする過程を通じて、ただ女性であるだけでさらされる抑圧や暴力が存在するという事実を本作は読者に突きつけてきます。
今回注目するもう一人の登場人物、高校生の新妻は、アルバイト先で人妻からセックスを強要されて以来「女の人のあそこが怖い」と感じるようになったという秘密を抱えています。その経験について、「どこまでが自分のやりたかったことなのか分からない」「空気に飲まれて怖い気持ちに蓋をした」と語る新妻ですが、自身の性的被害と共通する部分があるからこそ、美鈴はその話をすんなり聞くことができず「男のくせに責任逃れをするのか」と糾弾します。これに対し新妻は「セックスはいつだって男のせいだと思っていますか」と問い返します。
この新妻のセリフは、本作のテーマであると同時に今の日本の状況を示している象徴的な言葉のように思いました。女性であるというだけでさらされる暴力や抑圧の存在は、男性にしてみると、その抑圧や暴力に男性であるだけで自動的に加担できてしまう状況に見えるというわけです。暴力や抑圧におけるジェンダーの相補性がここでは問題になっています。