親学のいう「伝統的子育て」はどの時代の子育てなのか

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 疑問に思い、改めて『家庭教育の再生』を読むとこんな記述がありました。要約すると……

 「江戸末期に日本にやってきた欧米人の日本観を記す『逝きし世の面影』で日本は、『子供の楽園』と書かれている。そんな時代が日本にもあった。たかだか150年前の話」

 たかだか150年前の話……。科学技術も文化も何もかも違う150年前の日本と現代を単純に比較することがあまりにもナンセンスではないでしょうか。しかも比較しているのが、異国の地である「日本」をみた欧米人の日本観ですから、論拠としてはあまりにも頼りない。

 このように、どうも高橋氏の指す「伝統的子育て」というのがどの時代のものを指しているのかが曖昧なのです。例えば高橋氏が会長を務める「親学推進協会」のサイトには、「親学について」というページで「わたしたちの親や祖父母の時代と現代をくらべると、少子化、核家族化や価値観の多様化、女性の社会進出などにともなって、子育てや親と子を取り巻く状況は大きく変化しています」と記されている。「わたしたち」を高橋氏と指すとして、彼はいま65歳ですから(1950年生)、両親は80~90歳、祖父母は110~120歳くらいでしょうか。江戸末期の150年前には遠く及ばない。

 さらに、下村博文元文部科学大臣が2012年にFacebookに投稿した記事によれば、「伝統的子育てとは、育児について「言葉掛け」や「あやし」をすることだと言う。昔は、乳幼児に対しなにをするにしても言葉掛けをしたり、目が合うだけで「あやし」たりしていたが、例えば70歳以上の人99%は赤ちゃんを見ると反射的にあやすが、若い人は殆どあやさないという」とある。しかし「言葉掛け」や「あやし」なら今でも行われていますし、「70歳以上」は150年の半分もありません。

 ただ『家庭教育の再生』に、「戦後、日本の伝統的子育ての文化が断絶してしまった。高度経済成長以前、多くは三世代同居だった」とありますから、どうやら彼らは高度経済成長以前のどこかの時代にあった子育てを「伝統的子育て」と考えているようです。「150年前」と比べて随分スケールが小さい。「伝統的」というには最近すぎるのでは……。

 たったひとつの記述を追っても「親学」は怪しすぎます。とはいえこれは重箱の隅を突くようなことをしているだけで、親学の核の部分はすばらしい教育論なのかもしれません。「親学」について調べるうちに、1980年代から政治の中に「親学的なもの」が話題になっているがわかりましたので、次回以降紹介したいと思います。
(水谷ヨウ)

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