櫻井よしこ率いる武道館フェス、「日本らしい憲法を取り戻せ」「中国がヤバい」連呼で、極右オジ様が拍手喝采の不気味

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百田尚樹が作り上げた大爆笑

 その証拠にもなったのが、極端な支持者だけが集った1万人の仲間たちに気を良くしたオジ様たちの立て続けのスピーチである。このところ、右派雑誌の助っ人外国人枠で活躍するタレントのケント・ギルバートは、出だしで「現憲法を作成したアメリカ出身のケント・ギルバートです」と述べて大爆笑。現憲法について「憲法9条を世界遺産にしよう、というのもありました。妄想がここまでくると怪しい新興宗教の教義のよう」と言えば、再びの大爆笑。現憲法には元首の規定が無い、天皇が象徴と記されていることに疑問を放つ。先述したように、この会では繰り返し、アメリカに強いられた憲法ではなく自分たちの憲法を、と訴えていたが、別途、アメリカのジョン・マケイン共和党議員からメッセージが届き、しっかりと集団的自衛権が行使されたことを嬉しく思う(=一緒に戦ってくれることを歓迎する)と、上司が部下を褒めてあげるようなテンションのコメントを渡されても拍手する。アメリカに牛耳られてたまるかと叫んでも拍手、アメリカに褒められても拍手なのだから不思議だ。

 本団体は、憲法改正を訴えるために啓発映画を作成しているそうだが、その総指揮を担当するのが百田尚樹であり、会場でその予告編が上映された。現憲法は、「この戦後最大の危機に、日本を守るどころか、日本を滅ぼしかねない危険すら持っています」とのナレーションを挟むのは俳優の津川雅彦だ。安倍首相のお友達であり、つい先日も、日本の文化芸術の海外発信などを画策する有識者会議「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」に、お友達人事で座長を任命された。「日本を狙う国々にとって実に都合の良いものになっている今の憲法、その危険性を多くの人に伝えたい!」そうである。サプライズゲストとして、式次第にはなかった百田尚樹本人が登壇、「この70年の間にですね、左翼のマスコミがですね……朝日新聞が……あっ、言ってしまった」と、わざとらしい演技で大爆笑を作り上げる。

老後の趣味と化している説

 ひとまず有名どころが演説した後で、大学教授と地方議員が、「女性」と「子供」に特化したスピーチを続ける。「女性にも分かりやすいように」冊子を作り啓蒙活動を続けているという熊本大学教授の高原朗子は、国民の半分は女性なのだから、女性の意識を変えるために運動を続けますと訴えた。続いて、神奈川県議会員の松田良昭は、唐突に、武道館の「武」の意味を説きながら、武道をやっている子供たちは自らを強くしたい子供たちだとし、「子供たちに勇気を与えるような憲法を」と訴える。ちょっとよく分からない論旨だが、会場は迷わず拍手喝采である。国会前で政権に向けて怒りのメッセージを送っていたのは大学生を中心とした若者たちだったが、そのデモの模様は、百田総指揮映像で、「今、日本が危うい」と訴える場面で使われていた。自ら声を上げた若者の声を潰すことが、武道館の「武」、武士道なのだろうか。

 右派雑誌の寄稿者たちがそのままフェスティバル化した大会にこうして足を運んでみると、その中に悠然と佇む櫻井よしこの冷徹さが際立つ。リップサービスというか、ほとんどサービスだけでできているリップな皆さんと比べると、知性が感じられる。無邪気に喋り散らかす権力オヤジをたしなめる風紀委員の役割にも思える。

 それにしても、平日の真っ昼間から、なまじ国を動かす人たちが寄り合ってこのような奇特な宴が開かれていることに薄ら寒さを覚える。参加者に配布された書類の中には、近所のみなさんに署名してほしいと同封された憲法改正の署名用紙。使命感をもったオジ様たちが近所を練り歩く姿が見える。量産されるヘイト本を眺めていても感じてきたことだが、このいたずらな他国バッシングからもたらされる愛国心は、新たな老後の趣味としても響いているのではないか。1万人のオジ様たちに囲まれた2時間弱、自分の邪推はおよそ的中しているとの確信を持った。

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