社会

若年世代に「止むを得ぬ伝統回帰」を迫る、伝統的家族推進派の厚顔無恥

【この記事のキーワード】

家族が助け合った方が得

 さて、本件に関して、最近話題になっているのが、今年11月に行われた「第3回 一億総活躍社会に関する意見交換会」で使われた明治大学の加藤彰彦教授による「希望出生率1.8をいかにして実現するか」という資料です。(議事録はこちら

 冒頭では、これまで見落とされてきたとする「3つの論点」が示されています。

「世代間格差の真実 再生産コスト(子育て費用)の圧倒的不平等」
「少子化が進むなかで出生率を下支えしてきたのは伝統的家族」
「希望出生率1.8を実現するための急所」

 以降、これらを見ていきましょう。

 資料によれば、平成生まれの若年層は、年金保険、医療保険、介護保険、生活保護費(なぜここで生活保護費がでてくるのでしょうか)、国の借金などによって、“親・祖父母以外”の「おひとりさまの老後」を背負わされることになるようです。

 そして「誰とも知らない他人」を背負うくらいなら、「親孝行」をして家族で助け合うほうが負担は軽い。例えば、家族だけで保険が組めるようになれば低負担で持続可能ではないかとある。

 また、子育てには、金銭、労力、心理的な負担といったコストがかかるが、「子育ての重い負担を免れた彼ら(おそらく結婚・出産をしなかった人びと)」を、「ウチの子ども」が支えることへの不満が表現されています。

 つまり、「どこの誰かもわからない人を、自分やその子どもの税金によって支えることになるくらいなら、家族で助け合う方が負担が軽いし納得できるでしょ?」ということが書かれているわけです。

伝統的家族の出生力

 前節を前提の上で、いかに「希望出生率1.8」を実現するかを考えています。この時点で、どんな結論が出てくるのか予想可能なのですが……案の定、「伝統的家族」が持ち出されます。

 伝統的拡大家族は、他の家族に食らえて出生率が高く、伝統的家族観を保持する夫婦は出生意欲が高いというデータがある。人口が減少していく中で、脱家族化から再家族化することが必要なのではないか、という主張です。

 加藤氏は古くからこのような主張をしています。

「…残る道は“自衛”しかありません。自分で自分の身を守るしかない。つまり、国や企業を頼るかわりに “家族”で結束するのです」
「ここで指しているのは親世代と同居、またはおたがい近くに住む、“親同居の家族”のことです。親が同居していれば、お互い住居費や家計をシェアし、子育てや介護負担を分かちあうことができます」
「結婚の本来の意味、役割を見つめ直してください。結婚とは、けっして一時の恋愛感情でするものでもなければ、ましてや自己実現のためにするものでもない。あくまで家族というコミュニティ、セーフティネットを作るためにするのです」
(「プロポーズ大作戦で生き抜け! 新政権「限界」後には冬が来る」)

 しかし、「伝統的家族」の出生力が高いことは、日本の社会保障が常に脆弱であり続けたことの証左であり、いま「自衛しかない」のだとしたら、それは「失われた20年」によって「家族以外に頼るものがなくなってしまった」ということでしかないのでは……? 議事録でも「家族意識それ自体が伝統回帰の傾向を見せ始めております。伝統回帰へと転換しつつあると言ってもよいです。それは特に若い世代で顕著なのです」とありますが、若い世代は「やむを得ず」伝統回帰しているのではないでしょうか。若年層にいる一人として、そのように感じます。そして、こうした現状を招いた政府が「伝統的家族への回帰」を提唱するのは、開き直り以外のなにものでもない。厚顔無恥にもほどがあります。

 加藤氏の資料には、「希望出生率1.8を実現するために」ターゲットとして「地方在住の低学歴・低所得の若年層」をあげています。この層は、「三世代住居環境の中で成長」し、「伝統的家族観を保持」している。だから「産むだろう」ということなんでしょうけど……。

 「日本創生会議」がどういった魂胆で「希望出生率1.8」を提唱したのか、本当のところまではわかりません。ただ、文言を見る限り「希望出生率」は、「国の希望」ではなく「国民の希望」であり、その実現のために「阻害する要因の除去」をし「国が国民に押し付けない」ものであるとされています。

 ここしばらくの報道を見る限り、本当にその通りになっているのかはなはだ疑問ですし、不安は増すばかりです。
(門田ゲッツ)

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