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闇に対峙する女、無自覚な男。5時間17分にわたる『ハッピーアワー』をあなたは見たか

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男たちは、なぜ見捨てられたかわからない

 最初にも言ってたんですけど、出てくる男たちってみんな腹立つじゃないですか。で、初めて『ハッピーアワー』観たときに、濱口監督に言ったんですけど、「出てくる男がみんなクソなんですけど、わざとなんですか?」って。でも監督には全然そういう意図がなかったそうなんですよ。

 わざとダメに描くつもりなんて全然なくて、普通に、こいつらにはこいつらの事情があるんやで、と描いたつもりなんですけどね(笑)。

 僕、全員ダメだと思いますよ! 理詰め攻撃ばかりの公平(純の旦那)、仕事しすぎで家族放置の良彦(桜子の旦那)、あと芙美の旦那の……。

 拓也?

 そう、拓也! あいつ最悪じゃないですか! 最悪なんですよ!

 若い駆け出し作家の女性・こずえに心酔してて、不倫しているわけじゃないんだけど、妻である芙美よりも、こずえの肩を持ってしまうんですよね。そう、でも拓也がダメだなんて、本当に田中さん以外、観客の男の人はわからないと思いますよ。

 いやいや、マジで!? ダメダメでしょ!!

 たとえば良彦って、分かりやすいでしょ。仕事にかまけて家庭を顧みず桜子を孤独にした。公平さんも分かりやすいですよ、女を追い詰めるタイプの男として。彼らの場合は、男が悪者になる図式が、男性にも分かりやすい。でも拓也の場合は、女から見たダメなところが、まったく男性には分からないらしい。だから拓也について「ただただ被害者だ」っていう意見が結構ありますよ。

 えーー! マジで、こいつが一番あかんと思う。だって良彦は、桜子の旦那としての立場があって、桜子が「他の男とセックスした。でも私はあなたに謝ることが出来ない」と宣言したにもかかわらず、家庭を死守しようとしているわけじゃないですか。ある種、覚悟してるんですよこの人。で、公平さんは公平さんで、愛した女性が自分を愛していないことに納得できないまま、あの人なりに地獄を生きているんですよ。まさに「こいつらにはこいつらの事情がある」。なのに拓也! こいつ何なんですか! 一番自覚してないんですよ。こずえから好意を持たれていることも、それを芙美は気付いているのにこいつは無自覚に、ますますこずえに好かれるようなことばっかする。

 監督は拓也についてはどうですか?

 設定したこのキャラクターはこう行動する、ということをシミュレーションしていった時にですね、まあ、こう行動しただけなんですよ、拓也っていうキャラクターは。田中さんが仰っていた通り、拓也って全然悪いことをしている自覚がない。なぜなら彼にとって、こずえとの関わりは普通に自分の仕事をしているだけだから。そして、こずえのイベントを開くにあたって、妻である芙美に「仕事の中でできる範囲の協力をして欲しい」って頼んでいるだけで、芙美が嫌な思いをするとは全然思いもしない。多分、芙美から「協力できない」って言われたら、拓也は「いいよ、わかった」って言うんですよね。

 「俺の企画を通せ!」と無理に言っているわけではない。

 そう。「お互い思ったことはちゃんと言おう」っていうカップルなんですよ、芙美と拓也って。だから拓也は「(芙美は)思ったことはちゃんと言っているはずである」と考えていて、「言われてないことは、思ってないっていうことである」という前提で行動している人なんですよ。

 「こういうシステムさえ決めておけば、問題ないでしょ」ってね、ルール決めしてもね、規格外の出来事には対応できないじゃないですか。「思ったことはちゃんと言おうと約束したけれども、言えない状況」に陥ったら、そのシステムは機能してない。拓也は「今ここで起こってる問題」が見えてないんですよ。

 見えてないし、拓也が一番、何も選択しない人じゃないですか。その「選択しない」ところが、問題を招いてるんですよ。前半、芙美と拓也が結婚記念日のごはんを食べに行った帰りの車中の会話で、もうイラっとしました。

 え、どの辺ですか?

 芙美は「おいしかったね」とごはん屋さんに対する自分の積極的な感想を伝えているのに、拓也は「じゃあ良かった」ですよ。で、「来年はこういうことをしたいね」って芙美が話しても、全部、芙美に委ねている感じ。

 そうそうそう! お前が決めろや、お前がやれや!! って。

 拓也は、主体性が最初から最後まで全然なくて、常に相手の感想に乗っかっている感じが、腹立つわ~って。まあ、そういう人いるなって思うんですけど。

 でもね、こんなに拓也腹立つと言ってきましたが、僕自身もそういう風になっちゃう時っていうのがあるんですよ……。

一同(爆笑)

 自分の中に拓也と同じものを見てしまう。それがますます一段と腹立たしくって。ほんとにね、この映画はそんなことばっか!

 鏡なんですね(笑)。

 男性は、取り決めの中で「ここまでやってるからいいでしょ」っていうスタンスをとりがちなんですよね。拓也もそうで、「ここまでは俺の役割だからやるよ。役割は果たしてるからいいでしょ」って全然悪気なく思っている。だからそれで女性に怒られる意味がわからない。意地悪でもなんでもなくて、純粋に「やることやっているのに、何で?」と。それ以上、求めてくれるなって線引きをしているんですね。拓也はまだ若くて、90年代に育ったくらいの年齢設定ですが、その世代の男性はさっき『POPEYE』の話でもあったみたいに「女性をケアしないとね」って知識として学んでいるんだけど、「この程度のケアで、これでいいでしょ?」って具合だったりする。これをやられてしまうと、結局のところ、状況として何も言えなくなる、女性は。

 男たちの「この程度の」っていうのがね。「この程度」って程度が分かってしまってるところの危険性に気づいてない。だから最後、男たちはごくごく普通に生きているつもりだったのに、女たちに見限られていくし、なぜそうなったのかも男たちは理解できないまま終わっている。恐ろしい映画ですね。

 

映画『HappyHour』

<上映館>
●東京都/シアター・イメージフォーラム 【03-5766-0114】 2015/12/12(土)〜終映日未定(1/8までは確実に上映)
●兵庫県/神戸 元町映画館 【078-366-2636】 2015/12/5(土)〜2016/1/1(金) ※12/31(木)は休映
●大阪府/第七藝術劇場 【06-6302-2073】 2016/1/23(土)〜2/5(金)
●京都府/立誠シネマ 【080-3842-5398】 2016/2/6(土)〜2/19(金)
●宮城県/せんだいメディアテーク(主催:幕の人) 2016/1/17(日)
●愛知県/シネマスコーレ 【052-452-6036】 2016/1/23(土)〜2/5(金)
●鹿児島県/ガーデンズシネマ 【099-222-8746】 2016/1/30(土)、1/31(日)
●長野県/松本CINEMAセレクト 【0263-98-4928】 2016/2/21(日)
●静岡県/静岡シネ・ギャラリー 【054-250-0283】 2016/3/12(土)~3/18(金)

<作品情報>
製作総指揮 : 原田将、徳山勝巳 
プロデューサー : 高田聡、岡本英之、野原位
アソシエート・プロデューサー:靜 健子、HAYASHI Akikiyo
監督 : 濱口竜介
脚本 : はたのこうぼう(濱口竜介、野原位、高橋知由)
撮影 : 北川喜雄
録音 : 松野泉
照明 : 秋山恵二郎
助監督 : 斗内秀和、高野徹
音楽 : 阿部海太郎
製作・配給 : 神戸ワークショップシネマプロジェクト(NEOPA,fictive)
宣伝 : 佐々木瑠郁、岩井秀世
2015 / 日本 / カラー/ 317分 / 16:9 / HD

■濱口竜介 Ryusuke HAMAGUCHI / 監督 Director
1978年、神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され高い評価を得る。その後も日韓共同製作『THE DEPTHS』(2010)が フィルメックスに出品、東日本大震災の被災者へのインタヴューから成る『なみのおと』『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(2011〜2013/共同監督:酒井耕)、4時間を越える長編『親密さ』(2012)、染谷将太を主演に迎えた『不気味なものの肌に触れる』を監督するなど、地域やジャンルをまたいだ精力的な制作活動を続けている。現在は神戸を拠点に活動中。

(協力・神戸 元町映画館/構成・下戸山うさこ)

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