なぜ、早期の子ども貧困対策は社会全体にとって必要なのか

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就学前教育が、貧困の連鎖を断つ

 11月にOECDが、2012年のOECD加盟各国のGDPに占める教育機関への公的支出の割合を発表しました。日本は32カ国中、最下位の3.5%という結果となっています。子どもの貧困対策にかかわる制度は複数ありますが、「貧困の連鎖」を断つ際の、教育の意義は非常に高いにもかかわらず、です。日本財団が12月21日に公開した「子どもの貧困の社会的損失推計」では、深刻化する子どもの貧困を解消することは、経済的・投資的な観点からも大きな社会的意義があるとして、幼児教育が及ぼしうる影響について分析を行っています。

 報告書では、はじめに国内外で行われた研究を複数紹介しています。その中から2つほど紹介しましょう。

 ひとつが、たいへん有名な「ペリー就学前教育計画」です。これはアメリカで行われた調査分析で、貧困家庭の子どもへの幼児教育が、その後どのような影響を及ぼすか、調査対象者が40歳を超えた現在でも継続されている貴重な調査のひとつです。

 有名な調査なので検索すれば詳細について述べているブログなども見つかりますのでここでは概要をまとめます。この調査では、低所得状態にある3~4歳の子ども123人のうち、半数に幼児教育プログラムを受けさせ(処置群)、もう半数にプログラムを受けさせなない(対照群)というものです。その後、処置群と対照群にどういった差が生まれるか、を長年追ったところ、処置群の高卒者は60%であるのに対し、対照群は40%、経済面では40歳以上で2万ドル以上の年収があるものが処置群では60%、対象群では40%という結果が出ました。その他、犯罪や健康についても、処置群と対照群では大きな差があり、幼児教育プログラムを受けることがその後の人生を大きく左右させるとさせる、根拠の1つとされています。

 近刊では、中室牧子『「学力」の経済学』や、古市憲寿『保育園義務教育化』などでも紹介されていますし、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン『幼児教育の経済学』ではより詳細に幼児教育の意義が非常に読みやすく書かれているので、関心をお持ちの方は手に取ってみてください。

 この調査はアメリカで行われたものですから、日本では当てはまらないかもしれません。しかし報告書の中では、お茶の水女子大学で行われた分析も紹介されています。これは、家庭の所得と保護者の学歴と、子どもの学力との関係をみるもので、社会経済的背景の良好な家庭ほど学力テストの正答率が高く、またこの格差は、子どもの努力(勉強時間)の挽回が難しいということが明らかにされています。

 このように子どもの学力やその後の人生が、家庭環境や教育環境によって左右されるという研究が複数存在している。貧困世帯の場合、塾に通わせられない、家庭環境が良好ではないなどの要因で、子どもがハンデを背負わされてしまっているわけです。「貧困の連鎖」や格差の再生産を生み出してしまっているわけですから、問題を解消させる必要があるでしょう。しかし、OECD加盟各国のGDPに占める教育機関への公的支出の割合は、日本は最下位にあるのが現状なのです。

政府にとってもお得なワケ

 ここからは「政府にとってもお得な可能性」の根拠となります。

 日本財団のレポートでは、日本の貧困状況を推計した上で、子どもの貧困が放置される現状シナリオと、いま紹介した「ペリー就学前教育計画」のような、教育プログラムを受けた改善シナリオを比較すると、学歴や就業形態、所得税収がどのように変化するかを推算しています。その結果をまとめましょう。

【学歴】
「大卒および短大・高専・専門学校卒」
現状シナリオ 5.5万人
改善シナリオ 9.8万人

「高卒」
現状シナリオ 9.3万人
改善シナリオ 7.4万人

【就業形態別人口】
「正社員」
現状シナリオ 8.1万人
改善シナリオ 9.0万人

 このように明らかな改善がみられる予測です。さらに、所得や税・社会保障の負担も変化します。

【所得】
現状シナリオ 22.6兆円
改善シナリオ 25.5兆円

【税・社会保障の純負担】
現状シナリオ 5.7兆円
改善シナリオ 6.8兆円

 所得では2.9兆円、税・社会保障負担は1.1兆円も増えている。子どもの貧困対策を推し進めることで、これほどまでの経済効果が見込まれる、というわけです。政府にもお徳です。これをしない手はありません。

 低所得世帯の所得が増えれば、生活保護などの社会保障を利用せずに済むようになるかもしれません。所得が増えるということは、それにともなって税収が上がることになるはずです。そうすれば、社会保障をより厚くすることも可能になるでしょう。社会保障が分厚くなればなるほど、“普通の人”が事故や病気、失敗によって、困窮状態に陥りかけても、生存が脅かされずに生活を送ることは出来るはずです。いま困窮していない人たちにも関係のある話です。いつなにがあるかわからないわけですから。困窮したときに「お前が悪いんだ」と責め立てられるよりは、利用できる制度が充実しているほうが助かりませんか?

 否が応にも日本社会の中で生きていかなければならないわけですから、少しでも社会が安定するような、自分が失敗してしまっても生き延びられるような社会に向かったほうが、安心して生きていけるのではないでしょうか。来年も子どもの貧困に注視していきたいと思います。
(門田ゲッツ)

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