画一的な働き方が劣等感を生み出す。ADHD当事者が働きやすい場は「健常者」だって働きやすいはず

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Photo by Gisela Giardino from Flickr

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「薬とか周囲の協力がないと生きていけない自分が、ときどきすごく嫌になるんだよね。そういうものがなくても普通に生きている人ってたくさんいるのにさ。人間としての優劣で考えたら、どう考えても私には欠陥があって、劣っているって思っちゃう……」

 カナと2人で飲んでいるときに、酔った彼女がぽろっと言いました。

 カナとは10年来の友人です。ショートカットにくりっとした目が印象的な女性。社会人2年目で、IT系の会社で働いています。アマチュアのドラマーでもある彼女。たまに彼女が出演するライブに呼んでもらうのですが、ステージ上でドラムを叩く姿が、とてもかっこいいです。

 そんなカナは、ADHDという発達障害を抱えています。

 ADHDとは、発達障害のひとつであり、注意欠陥・多動性障害とも呼ばれます。先天的な脳の機能不全による障害で、不注意、衝動性、多動性といった症状が見られます。症状の具体例としては、課題を行う際にその課題に注意をうまく向けられずケアレスミスが多発したり、会議などの大事な予定を自然に思い出すことが困難であったりすることなどが挙げられます。ADHDについては日本イーライリリー株式会社が運営するサイトの説明がとても分かりやすいので、ご興味のある方にはおすすめです。

 先ほどのカナの発言に対して、私は言いました。

「ADHDは先天的なものなんだから、周囲の協力が必要なのはカナのせいじゃないじゃん」

 カナは返しました。

「頭では分かっているよ。“ADHDは先天的な障害で、なってしまったのは私の責任ではない。力が及ばない部分は、周囲の協力を得て解決していけばいい”。でも、周囲の人に頼らざるを得ない状況になると悔しい気持ちがこみ上げてきて、自分が本当に嫌になるの」

「どうして悔しくなるんだろうね?」

「……私は無意識のうちに自分を含めて人を“優劣”という軸にのせて見ているんだと思う。私が考えるその軸の中では、私は“劣”に分類される。それで悔しくなるんだと思う」

「なんで“劣”に分類するの?」

「自分でもよく分からない……。周囲の協力を得られないと生きていけないから……? うーん、なんか違う気がするな。……あ、多分、失敗を繰り返してしまうのは私の努力不足って捉えているからだと思う」

「でも、さっきカナは“ADHDは先天的なものだ”って自分で言ってたじゃん」

「小さいころから、母親とか友達から、“真面目にやっていないから、同じ失敗を繰り返すんだ”って何度も言われてきているんだよね。当時はADHDの診断を受けていなかったし、母親もADHDっていう言葉すら知らなかった。そういう状況で育ってきたから、客観的には『先天的な障害だ』ってわかっていても、いざ失敗すると無意識的に『真面目にやってないからだ』って考えてしまうのかも……。人間を優劣に分けようとしちゃう部分も、そういう周囲の人たちの言葉によって形成されてきたのかもしれない。母親とか友達はADHDを正しく理解していないから、彼らの言うことはお門違いだっていうことは頭では分かっているんだけど、無意識に『その通りかも』って思っちゃうんだよね」

 カナとの会話からは、スティグマの形成過程が垣間見えた気がしました。

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