朝、起きたら、毎日違う顔になっていたらどうするだろう? というのが、映画『ビューティー・インサイド』のアイデアの発端です。
もともとは、2013年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで三冠グランプリを受賞して話題になった、インテルと東芝合作の40分あまりのソーシャル・フィルムでした。その作品を、韓国のCMクリエイターのペク監督が映画化したのが本作です。映画版では、ソーシャル・フィルムにはなかった、主人公が恋人に自身の秘密を告白し、ふたりの気持ちが通じ合った後のストーリーも描かれています。
「容姿で見られる」ことを知っている男性たち
物語は、ウジンを中心に進みます。学生時代、突然、朝起きたらおじさん(現在41歳のペ・ソンウが18歳になりきって戸惑う演技がまたせつなくて良い)になっていた彼は、その状態では学校にもいけず、家に引きこもっていました。そんなところに、トッポギをもって現れたのが、親友のサンベクでした。それ以降、ウジンの秘密を知っているのは、母親とサンベクの二人だけでした。
毎日、顔が変わってしまうため、人前で仕事をすることができないウジンですが、なんとかサンベクと二人で、オーダーメイドの家具屋を始めて、軌道に乗せることに成功します。ある日、ウジンは、ある家具店で、イスという女性を見て一目惚れをしてしまいます。毎日違う姿で家具店を訪れても、同じように接してくれる彼女への思いが募り、ウジンは彼女に告白しようと決意するのです。
この告白をするにあたってウジンは、「ブサイクよりもハンサム、年配より若いほうがいい、できれば背が高く、かっこよく……」と考え、理想の容姿で目覚める朝までタイミングを待ちます。この連載の担当編集さん(20代・男性)にも「イケメンの日にだけ、ラブシーンがある」と言われて、ルッキズム的な表現もあるのではとはっとしました。ところが、なぜか容姿を茶化した映画には見えないのが不思議なのです。
考えてみると、ひとつには、男も容姿で見られる存在になり得ると考えさせるテーマだということがあるでしょう。私はたまに、あまり韓国の文化ことを知らない人から、昨今の男性アイドルの変化を見て「日本よりも『屈強な男らしさ』にこだわっているようにみえた韓国人男性アイドルが、近年は、メイクをしたり、突然線が細くなったり、時にはフェミニンな美しさを身につけようとしているのはなぜ?」と問われることがあります。こういった現象は日本でもジェンダーレス男子などと言ってみかけられるのですが、そのジェンダーレス男子がお手本にしているのが、韓国の男性アイドルだったりするのも事実です。
この映画を見る限りでは、ウジンは、女性のように容姿で評価されることを感覚として知っているのではないかとも受け取れました。だからこそ、どんな自分でもそのままに受け入れてくれるはずという、ある種、相手に過度な適応を求める傲慢な行動をとるのではなく、自分の容姿如何によって、どう受け止められるのかが変わってしまうと自覚して、相手に遠慮をして行動をしてしまうのかもしれないとも思えます。それは、朝起きてちょっとむくんでいたり、いつもよりイケてないと感じたときに、外出をためらう女の子の「容姿で見られる」恐怖と変わりがないのかもしれません。だから、ウジンは容姿に自信のあるときにだけパーティに出られるのかもしれないなと。
そして、イスは、普段は他人から容姿で評価される性だからこそ、毎日見た目の違うウジンに見られる、そして触れられることに対して戸惑いを感じるシーンが描かれていることも、この映画が単なるファンタジーに見えない理由のひとつだと思います。最初から、「中身さえ一緒だったら、どんな姿でも構わない!」と綺麗事を言いきれないのは、この、初めて会った人に「触れられる」ということに対する恐怖があるでしょう。
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