恋人よりも、友人や家族を大切にする新しいつながり
最近の人間関係を考える際には「周りと協調できる自分でありたい」という欲求と「自分らしさを受け入れて欲しい」という欲求のバランスに注目する必要があります。第一生命経済研究所では人間関係やコミュニケーションの変化について10歳代半ばから40歳代前半の男女を対象に調査をしていますが、1990年代の後半から2010年代にみられる変化として以下の2点をご紹介しましょう。

「若年層の友人関係意識」より編集部作成
ひとつめは友人との調和や同調を志向する状況です。図1にみられるように、「恋人より友人を優先する」「異性の友人より同性の友人を優先する」といった意見は男女ともに基本的には増加の傾向にあります。こうした状況は若い世代により顕著で、同調査によると、「多少自分の意見を曲げても友人と争うのは避けたい」に賛成とする20-24歳の割合は1998年には44.4%だったのが2011年には79.0%となって35ポイントも上昇していることがわかっています。このデータが示しているようなコミュニケーション作法、その場の空気を保つことを重視して人間関係の維持そのものが目的化する様子は「つながりの社会性」とも呼ばれていて、国内の社会学でしばしば議論されてきたテーマです。
「つながりの社会性」が生じる背景には、景気の悪化や雇用の流動化を受け、それまで人間関係を支えていた企業や学校といった枠組みが弱くなった点、所属や肩書きではなく個人が持つコミュニケーション能力がその人のポジションを決定するようになった点などがあるといわれています。この調査が示している友人との調和や同調を志向する状況の強化は、90年代後半から生じてきた「つながりの社会性」がさらに緊密になっていることを示しているといえそうです。

「若年層の友人関係意識」より編集部作成
もうひとつは、人間関係の閉鎖・内輪化と呼べる状況です。図2にみられるように、ネットワークを広げたり、人間関係を多様にするといった姿勢は男女ともに減少傾向にあります。また、「友人との付き合いのために家族を犠牲にするのはやむを得ない」に対して賛成とする人は男性で50.4%から33.8%、女性で43.1%から32.6%に減少しているなど、家族といった、より自分に近い人を大切にしようとする傾向が強まっている点を読みとることができます。
これは近年社会学で注目されている話題で、若い世代を中心とした家族関係の緊密化や地元志向といったテーマで議論になっています。「つながりの社会性」が指摘されはじめた90年代は、つながりを重視するようになった結果、相手やシチュエーションにあわせて自分を使い分けるようになるという自己の多面化が指摘されていました。しかしこのコミュニケーション戦略には、「本当の自分」や「ありのままの私」を見失いがちになるという側面があります。家族や気心の知れた友人を優先するという今日の人間関係は、これを回避したうえでつながりを維持したいという新しい方向性があらわれているとみられます。