社会

風俗店に「福祉」機能を期待し、押し付ける流れは間違っている。

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何を「風俗」特有の問題とするべきか

 池袋に総本店を持つ「サンキューグループ」という全国展開しているデリヘルが、2015年1月20日に売春防止法違反で代表者や従業員がいっせいに逮捕され、大きな話題になった。サンキューグループは、その名の通り、30分3900円という破格の安さを売りとするデリヘルだったのだが、禁止行為とされている「本番(挿入行為を伴うセックス)」を事実上認めていた。安さだけでなく、過剰なサービスを売りにしたデリヘルだったわけだ。当然、労働環境は苛酷だ。さらに3900円と安価なために、女性の取り分も多くない。ブラック企業と化し、女性たちは使い捨てられていた。

 悲惨な話だ。しかしこれも風俗業界のみで起きていることではない。いうまでもなく、いまだに複数の業界で「ブラック企業」は存在しているし、過酷な労働環境で消耗品のように使い捨てられる人びとはたくさんいる。「風俗業界だけの特殊な話」ではないのだ。

 サンキューグループのような激安店は多く存在している。その背景には、「価格競争」に陥った業界の背景がある。「価格競争」とは、同業種の企業が、サービスや製品の性能などで競うのではなく、価格の安さで優位に立とうとする競争のことだ。少し前の牛丼屋や家電量販店を思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。価格競争が起これば、当然、粗利が下がる(1つの商品で得られる利益が減るわけだから)。その分、社員の給料も下がりやすくなる。新しい社員も雇えないから、ひとり当たりの労働時間が増える。労働環境を整える余裕もない。心身を崩す社員も増えるだろう。

 だが、風俗業界全体が価格競争の中にいるというわけでもない。他店との差別化をはかり、価格を引き下げずにいる風俗店は多数存在する。コンセプトを工夫したり(SM、女子高生、看護師、痴漢、その他様々なプレイ)、キャストの容姿に一定の制限を設けたり(容姿端麗だけではない、デブ専、人妻など)することで、特定のフェチをもった客を獲得することは不可能ではない。

 これらは全て「風俗の世界だから」起きるものではない。ビジネスだ。市場原理に則った経営に過ぎない。もちろん、そうした中で発生している「搾取」などの問題をないがしろにしていいというわけではく、それらは全て解決しなくてはいけない重要な課題だ。

必要なことは社会制度の見直しだろう

 話をもとに戻そう。風俗で、結果的に機能してしまっている側面のある「福祉」をことさらに強調する必要はあるのだろうか。

 風俗は、社会に存在する様々な問題を多数内包しており、社会に訴えるために可視化しやすい世界なのかもしれない。先ほど紹介した記事でも言及したように、「風俗」というセンセーショナルな看板を都合よく利用してしまう危険性はあるが、その作業自体は重要だろう。しかし、「社会に足りていないもの」を風俗に期待することは間違いだ。様々な生きづらさを抱えている人も多くいるような世界なのだとしたら、これ以上なにか求めるのは酷なことなのではないか。必要なことは、風俗への期待ではない。私たちが生きる社会を変えていくことだ。

 一般社団法人ホワイトハンズ代表の坂爪真吾氏の『性風俗のいびつな現場』(ちくば新書)に、激安風俗店で働く女性たちは、実は意外と福祉や行政と繋がっているという記述があった。これには私も驚いた。制度に繋がることができずに、困っている女性たちが多い、というイメージを持っていたからだ。しかし福祉に繋がっているにもかかわらず、過酷な労働条件の中で働かなくてはいけないというのはどういうことなのか。それは、福祉サービスがあまりにも脆弱であり、ニーズに沿った支援を提供出来ていないからなのではないか。

 風俗は、その存在自体を否定されがちな世界だ。しかし、風俗自体はどんな形であれ存続し続けるだろう。であれば、坂爪氏も書いているように、まずは風俗という存在自体を認めていく必要がある。さらに、存在を黙認するだけでなく、可能な限り可視化していかなくてはならないだろう。フタをしてしまえば、その世界で何が起きているのかが見えなくなる。それはそこで生じている問題を見過ごすことと同じだ。

 さて、風俗は他の業種と同じビジネスでしかないとここまで強調してきたが、その一方で、風俗業界という特殊性を見逃してよいというわけでもない。キャストは女性で、利用者は男性がほとんどだ。密室でサービスが提供され、身体的な接触が他業種に比べて圧倒的に多い。牛丼屋で、牛丼が提供されるのとはまた違う。また、風俗は法的にはグレーな存在であり続けるだろう。ピンクサロンは法的には喫茶店だし、ソープランドは個室付の浴場である。法律を上手く解釈して行われているため、タブー視が強くなれば一気に法的にアウトになる可能性はある。さらに「青少年の健全な育成を妨げる」として、社会通念上、「望ましくないもの」とする意識はなかなか変わらないだろう。こうした要素を無視して、「他の業界でも同じようなことが起きている」と単純な比較をすることは、「風俗だからこそ」起きている問題の解決方法を間違えてしまうかもしれない。

 であるからこそ、なにが「風俗」特有の問題であり、なにを「社会」の問題とするのか(風俗も社会の中にある問題であり、こうした言い方には齟齬があるのだが)の選別は重要な作業だ。センセーショナルなテーマであるが故に、それを見分けたうえでの議論を交わしていく必要性を強く感じている。
(門田ゲッツ)

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