
口先だけの「産めよ増やせよ」は意味がない。Photo by deveion acker from Flickr
2016年が始まりもう1カ月以上が経ちました。ちょっと前まで「2015年が一瞬で終わった気がする!」と感じていたのに……。光陰矢のごとし。「結婚? 子ども? まだまだ先でしょ」といっている人たちにとっても、それは同様です。そこにきて「女性の出産適齢期は18~26歳」などといれわれば、ドキリとします。「私たちってリミットまであと数年しかないの?」と焦る女性、「とっくに過ぎてるんですけど……」とやり場のない気持ちを抱える女性。なんにしても、聞き捨てならない発言です。
この発言が飛び出したのは、今年1月11日、浦安市の成人式でのこと。毎年、同市内にあるディズニーランドで行われるセレモニーはニュースで採り上げられますが、今年話題を集めたのは、松崎秀樹市長のあいさつでした。参加した約1400人の新成人への祝福もそこそこに、発言の大部分は少子化問題に割かれました。
「20歳を迎えた皆さんがた、いままで結婚適齢期という言葉はありましたけれども、この少子化を前にして日本産婦人科学会は出産適齢期という言葉をできるだけ皆さんがたに伝えようと努力しはじめました。出産適齢期、18から26歳までをさすそうです。いまの大人たちががんばる時代ではなく、若い皆さんたちがこれからの日本、地域社会を担っていきます」
これが報道されるやいなや、ネットを中心にまざまな声が駆けめぐりました。「出産適齢期とされた年齢がそもそも間違っている」「若いうちに産んだほうがいいとわかっていても仕事や経済的な理由から『いま産めない』女性カップルがあふれている、まずは『産んで育てやすい社会』を実現するほうが先決だろう」「女性にばかり少子化問題を押し付けるな!」などなど。
20歳の男女にとって26歳というのは、身近な未来。そのころに自分が何をしているかの想像はおよそつくものですが、参加者の多くにとってそれは生活のため、将来のために懸命に働き、結婚して子どもを持つ余裕はまだないという姿でしょう。一方、26歳以上の人にとっては、いきなり「もう適齢期を過ぎている」と突きつけられたも同然。しかも発言者は、オジサンです。自身は産む・産まないの当事者でなくなっている人に上からそんなことをいわれれば、腹が立ち、傷つくのは道理です。
なぜ市長はそんな発言をしたか?
適齢期については後日、日本産婦人科学会がHPで「『出産適齢期は18歳から26歳を指す』と定義した事実はございません」とはっきり否定しました。それにより、松崎市長の発言はトンデモ認定され、自身が若かった時代といまの若者が置かれている状況の違いも考慮もせず、「俺らは産んだ、次は君らの番なのに何してる」とばかりに国のため地域のために子どもを産むことを若者に求める老害という印象を残すに終わりましたが、「浦安市は全国で唯一、卵子凍結保存の研究事業に助成金を出している自治体」という事実を踏まえると、この騒動から違うものが見えてきます。
「2015年の春に、卵子凍結保存を希望する20歳から34歳までの浦安市民は低額で卵子凍結保存を受けられる、と発表しました。これは市長が強力に推し進めて実現した政策で、『若いうちに産んだほうがいいとわかっていても、産めない』という若者の実情をなんとかできないかという強い気持ちからのものです。その気持ちが先走りすぎてあの発言につながった。決して若者の不安や反発を煽りたかったわけではないと見ています」
と話すのは、浦安市役所の健康福祉部に所属する職員。
「現在、不妊治療中の女性の平均年齢は約39歳。この年齢だと卵子老化などが原因で、出産率はわずか10%弱です。にもかかわらず、子どもがほしい一心で莫大なコストや労力を費すカップルが後を絶ちませんが、特に女性への負担が大きすぎます。これを防ぐには、老化がはじまる以前の卵子を採り出して凍結し、その時間を止める〈卵子凍結〉が有効だと判断し、市として助成していくことを決めました。女性が出産かキャリア形成かの二者択一を迫られることなく、産みやすいときに産んでほしい。そこで、順天堂大学医学部附属浦安病院の協力のもと、卵子凍結保存プロジェクトを始動させました」(同職員)