やっぱり「上流老人・曽野綾子」の暴言を許容してはいけない

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 曽野はこの少子高齢化の時代に「国民全員が死ぬまで働かなければならないとなるのは自然で、人道というものでしょう」とも言うが、それはさすがに人道に反するだろう。手ぐすねを引くように安穏とした年金暮らしを待ち構えているだけではいけないのは、これまた同じ号の「週刊ポスト」の見出しに「『60歳で貯蓄2千万円』では絶対足りない!」とあることからも分かる。とはいえ、(ありきたりな正論過ぎて、書くのが少々憚られるほどだが)たとえ働けなくても、お金がなくても、人は生き続けるべきだ。ましてや自分で歩みを止めたり、諦めたりするべきではない。20歳でも、50歳でも、90歳でも、当たり前に保たれるべきだ。

 こう言うと曽野は、「私はなにも死ねと言っているわけではない、そういう乏しい理解をしないで欲しい」、と返してくるだろう。しかし、大雑把に撒かれた直言は、すぐに貴方の手元を離れ、浮遊し、貴方の見ず知らずの人に付着して、身動きを取らせにくくする。私の真意ではない受け取られ方をした、というのが暴言を放つ度に聞かれる弁解だが、それは、自分の身を守ることにはつながっても、傷つけた誰かをフォローすることにはならない。モノを書くとは、確かに誰かを傷つける可能性を含むことではあるが、その無自覚がずっとずっと連鎖していることに気付いて欲しい。気付かないならば、その都度ご指摘申し上げるしかない。彼女の暴言はあまりの頻度に「また言ってるよ」で済まされるようになったが、それだけで済ませてはならないのだ。

特集「『下流老人』のウソ」

「Wedge」(2016年2月号/株式会社ウェッジ)

 「Wedge」は、自分とは無縁な雑誌である。なんたって、この雑誌の販路比率のうち、実に64%が「東海道・山陽新幹線グリーン車搭載」(「Wedge」媒体資料より)なのだから。キオスクなどでも買えるが、主たる読者はグリーン車に乗るビジネスマンであり、「実際に日本を前に進める各分野のエグゼクティブリーダー、ビジネスパーソンの目に、直接留まる雑誌」(同上)なのである。資料にある読者の「個人年収」のグラフを見ると、平均年収は1077万円であり、グラフの最低値はなんと「700万円以上1000万円未満」である。あれ、年収700万未満はグリーン車に乗っちゃいけないんだっけ……よく見ると小さな文字で「700万円未満は除外」と書いてある。不誠実な媒体資料だが、とにかく広告主に「金を持っている人が読んでいます」と印象づけたいのだろう。で、この雑誌が震災からわずか2年半後に組んだ特集は何だったか。「今こそ原子力推進に舵を切れ」(2013年9月号)である。目の前にカネと人間があるならば、真っ先にカネに飛びつくタイプの読者を想定している……とは決めつけたくないが、グリーン車の中で育まれる思考とはこういうものかと垣間見える。

 グリーン車ではなく、わざわざネットで取り寄せて「Wedge」最新号を開くと「『下流老人』のウソ」という特集が組まれている。通読すると、働き続けるシニア世代のルポなど読み応えのある記事も多いのだが、編集部員が記した特集の冒頭を飾る記事に主旨が詰め込まれている。その「高齢者の貧困は改善 下流老人ブームで歪む政策」という記事では、昨年売れた書籍、藤田孝典『下流老人』(朝日新書)やNHKスペシャル取材班『老後破産』(新潮社)といった、老人達の窮状を記した本に苦言を呈す。「高齢者の貧困率は改善傾向にあり、貧困化が進んでいるのはむしろ現役世代のほうである」とする「Wedge」の見解は正しい。しかし、実際には、高齢者の貧困「率」は改善傾向でも、少子高齢化によって貧困「者」は増えている。それに、下流老人への注目が集まったのは、貧困化が進んでいる現役世代がそのまま歳を重ねれば、いっそうの貧困状態を迎えるに違いない、との不安が大きいからだろう。

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