
Photo by Mark Vitazko from Flickr
驚かれるかもしれませんが、日本の刑法には盗撮に関する規定がなく、各都道府県が制定している迷惑防止条例によって禁止されています。さらに毎日新聞の取材によって、山口、宮崎など16県の迷惑防止条例には不備があり、電車での盗撮は立件できても、トイレや更衣室などでの盗撮は立件できない場合があることが判明しました。これは、16県の迷惑防止条例では、盗撮禁止とされる場所が「公共の場所」に限られるためです。この「公共の場所」には電車や駅構内、公園などは含まれますが、トイレや更衣室などは含まれません。そのため16県ではトイレや更衣室などでの盗撮があっても、科料1万円未満の罰則しかない軽犯罪法違反などしか適用できず、不起訴になる例も少なくないようです(迷惑防止条例の罰については後述)。
これまで16県以外の都道府県でも同様の理由で、トイレや更衣室などでの盗撮は立件することが難しかったり軽い罪にしかならないなどの問題がありましたが、近年、それぞれの条例が改正されたことにより電車などでの盗撮と同様の扱いが可能となりました。また16県の中でも兵庫県は、2月の県議会に条例改正案を提案する方針を示しています。
「迷惑防止条例」という不備
なぜ、迷惑防止条例にそのような不備が発生したのでしょうか。制定時、「公共の場所」ではない、プライベートな領域には踏み込めないと考えられていたのかもしれません。あるいは、各都道府県で迷惑防止条例が制定された1950年代にはトイレや更衣室での盗撮に必要なビデオカメラが普及していなかったため、こうした犯罪を想定できなかったのでしょうか? ビデオカメラの普及について調べてみると、コードレスで、片手で持てるサイズのビデオカメラが一般家庭に普及し始めたのは1985年ごろでした。迷惑防止条例が制定された時代のカメラはもっと大きくて使いづらかったのでしょうから、この可能性は大きいように感じます。
なぜこうした条例になっているのか、神奈川県警や警察庁に問い合わせてみましたが、残念ながらどの担当者もその理由を把握していませんでした。
そもそも、盗撮に関する規定が刑法にないこと自体、おかしな話です。同じ「迷惑防止条例」でもその内容は都道府県ごとに少しずつ異なるため、都道府県によって刑罰の重さが変わってしまいます。例えば東京都では、盗撮で捕まった場合1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されますが、埼玉県の場合は、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。警察庁の調べによると、スマートフォンの普及や小型カメラの性能上昇などにより、盗撮の検挙件数は年々増加しています。盗撮検挙件数を記録しているということは、被害があることを把握しているわけですから、これまでの間に新たに刑法を定めることは可能だったはずです。
このように犯罪の処罰の規定が都道府県ごとに設けられているために生じる問題は盗撮以外にもあります。例えば、長野県には18歳未満の青少年との性交渉などを禁止する淫行条例が全国で唯一ありません。そのため、他府県から青少年と淫行するために来県する人もいると言われています。
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