オナラをしても、ギリギリのラインで愛したくなる男『俳優 亀岡拓次』と、男たちのワイルド願望

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(C)2016「俳優 亀岡拓次」製作委員会

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近年、『問題のあるレストラン』(フジテレビ)や『下町ロケット』(TBS)などで活躍する安田顕さんの主演作『俳優 亀岡拓次』は、脇役ばかりを演じている俳優、亀岡拓次の物語で、現場から現場を転々とし、撮影が終わると酒を飲むのが楽しみという彼の日常を描いています。

終始良い意味でのなんでもない脇役俳優の日常が描かれるのですが、ときおり荒唐無稽な架空の映画の話が出てきたり、急にその中に亀岡が入り込んだりして、絶えず現実と虚構の間を揺れてるようなところが、印象に残る作品です。映画の中に出てくる海外の巨匠的な映画監督が「私にとって映画とは、船酔いみたいなものだ」という台詞を言うシーンがあるのですが、実際、映画や演技って、そういう感覚のものなのかも……と思ってしまいました。

そして、この映画をみて思ったことは、「オナラって男にとって何なんでしょうね」ということでした。

女性は人前でオナラをしたら、なかなかメンタル的に復活できないけれど、男性が、それもある特定の種類の男性がオナラをしても、なにか勇猛なイメージが強くなるだけでノーダメージだったりします(もちろん、昨今はダメージ受けるほうの男性もいますが)。「男も女も同じであってよいのだから、女子がオナラを恥ずかしがる必要はないのでは?」と捉え直そうとしても、不可抗力であったり、健康面に影響を及ぼさない限りは、個人的には人前でオナラはしたくないものです……。

安田顕さんという人は、『俳優 亀岡拓次』の中で、オナラをかましますが、それは、安田さんのアドリブだそうです。実際の安田さんも、イベントでオナラを20発するという挑戦をしたこともあるくらいで、オナラがノーダメージのタイプの人かと思います。映画ナタリーでは「『俳優 亀岡拓次』横浜聡子が語る“俳優 安田顕”の魅力はオナラ芸」という記事まで書かれるほどだから、安田さんのオナラは「汚い」と評判を落とすより、むしろ称賛されています。

世界への反抗としての「オナラ」

映画の中では、トイレでマネージャーからの電話を受け終わった亀岡がオナラを一発。それは、マネージャーの依頼に素直に応じながらも、ちょっとした反抗を示しているようにすら見えました。

個人的に前々から思っていたことですが、人前でオナラをするといった、下品と思われることをあえてしたり、あるいは無精ひげを生やす、だらしない格好をするなど、小汚くなろうとするということは、ある種の男性にとって、「ワイルドでありたい」というアイデンティティのひとつを表しているのではないでしょうか? 国内外の端正な顔の映画俳優が、自分の殻を破ろうとするときにワイルド路線を選ぶのも、「汚くなりたい願望」のひとつだと思います。

そして亀岡は、オナラだけでなく、吐くし、漏らすし、ゲップはするしで、とにかく何かを体からただ漏れにしていて、汚くありたい願望を強く持っているように感じられるキャラクターです。つまり亀岡も「ワイルドでありたい」というアイデンティティを持っているように一見思われます。

ところが、亀岡自身の性質はというと謙虚で、「ワイルド」という言葉からイメージされるような「押しの強い人」ではありません。いつも控えめで、酒場で俳優をしている自慢をするような人物でもないし、現場で理不尽なことがあっても、文句ひとつ言わず、情けなく眉を細め、トホホ……という表情をするだけ。こんな姿を見ていると、いつも我を出さない亀岡の、たった一つの世界への反抗が、げっぷをしたり、オナラをしたりすることなのではないかとすら思えてきます。

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