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NHK不妊治療特集「捨て石に」発言の波紋。仕事と家庭の両取りを「ワガママ」にさせる働き方こそが問題

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 同番組のディレクターも小野アナウンサーと同世代で、「気が付いたら(出産の)タイミングがとっくに過ぎてました、という人」だと前置きし、そのディレクターがこう話したという。

「『私たちは、捨て石だと思うんですよ。でも小野さん、いい捨て石になりましょうよ。この無念を良いエネルギーにして、世の中に貢献できること探しましょうよ』。良い捨て石になるには、どうしたらいいと思われますか?」

 「捨て石」という言葉はネガティブな印象を与えるが、しかし決して自虐的な物言いではない。元は囲碁用語だが三省堂の大辞林 第三版によれば「現在の効果はないが、将来役に立つことを信じて行う行為。また、そうする人」という意味を持つ。つまり、「できれば産みたいと考えていたが、産まずに生殖年齢を過ぎた」ことを無念と捉えているとしても、子を産み育てることだけが“女性にできる唯一の社会貢献”ではないというメッセージである。

 「良い捨て石になるにはどうしたら」と問いかけているが、NHKのアナウンサーとディレクターという高い社会的地位を勝ち取った彼女たちには、改善の必要性が高いのに「当たり前のこと」とされてしまっているいくつもの社会問題へ斬り込むこと、つまりテレビ番組でこうした発信を続けていくことこそが「将来役に立つことを信じて行う行為」だと自覚しているだろう。

出産を阻む日本人の働き方

 番組公式サイトでは視聴者からの意見を書き込み・閲覧できるが、16日時点で350もの意見が寄せられている。批判の中には、「キャリアを得たうえで子供を持ちたい人に助成などの支援はあっても、若いうちにキャリアをあきらめて子育てをした人の再就職などキャリア形成への支援はない」という、はっとさせられるものもあり、決して感情論が飛び交っている場ではない。

 小野アナウンサーが20~30代だった頃からおよそ20年が経過した現在でも、世の中は「20代30代の、今、もうちょっと仕事頑張らないとっていう時期、産めるような社会」ではない。仕事か家庭かの選択を迫られる女性は多い。両方を充実させようとすることは、決してワガママではない。失礼ながら小野アナウンサーを例とさせてもらうが、たとえば「異動(転勤)」のある総合職社員にとっては、結婚生活の持続や出産・育児はハードルが高い。家庭を犠牲にせざるを得ない長時間勤務などの働き方を強いる社会、家庭内の雑事を家族のうち一人(主に女性)が負担する“常識”など、いくつもの要因が重なり合っている。妊娠・出産はプライベートの問題だが、同時に社会問題でもあるということだ。ゆえに“社会的不妊”という言葉も使われる。

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