未成年の性的欲望を否定せずに、保護・救済することは可能か

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小池一夫公式ブログより

小池一夫公式ブログより

去る2月21日、岡山県警により会社員が逮捕された。逮捕理由は未成年誘拐容疑で、出会い系サイトで知り合った岡山市在住の女子生徒を容疑者が呼び出し、同月7日から兵庫県赤穂市の自宅に連れ込んだのだという。

この事件報道に際しての、小池一夫氏のツイッターでの発言が二次加害発言ではないかと、話題となった。『子連れ狼』など漫画原作で著名な小池氏は、ツイッターのフォロワー数は28万人以上と、ネット上での影響力の大きさがうかがえる。小池氏がツイッターで発言した問題箇所は以下である。

のちに、賛成や反対など多くのコメントが届き、炎上したわけだが、小池氏はツイートから2日後の23日に自身のブログで「僕の変わったところ、変わらないところ。」と題し、批判に応じている。その前にまず、筆者が当該ツイートを読んだときの違和感を整理してみる。

1.倫理観と貞操観念の欠如を持ち出し、女性が欲望を抱くことに対して否定的な、性規範を押し付けている
2.本件の女子中学生がどういった意図で出会い系サイトを利用し、兵庫県在住の相手宅に身を寄せたかが報道されていないのに、性的欲望とお金目当てと決めつけている
3.性的欲望が出会い系サイト利用の理由だとしても、1.の通りであるし、同様に、未成年であっても欲望を抱くことは不自然ではない
4.女子中学生が容疑者から強要されて兵庫に滞在したのだとしたら、きっかけが性的欲望であれ金銭目当てであれ、13歳の少女を責める理由にはならない
5.本件の背景は報道されていないにもかかわらず、逮捕された男性についても「馬鹿な男」と断罪しているが、少女が容疑者の自宅になぜ身を寄せたのか? と考え、男性の置かれた状況にも想像を行き届かせるべきではないか
6.これらの発言を「家人」が言ったものとし、批判からの責任逃れをしている

(※筆者が確認した報道は、20日のテレビ朝日のANN、21日の毎日新聞、朝日新聞、22日のKSB瀬戸内海放送のもの)

まず1.についてだが、当初のツイートでは「倫理観も貞操観念もない女」という表現があり、ここに、性的欲望を理由に出会い系サイトを利用する女性の欲求は抑制されるべきだ、という考えがうかがえる。2.の通り、そもそも女生徒が性的欲望を理由に出会い系サイトを利用していたのかも定かではない。そして、3.で違和感を指摘したのは、「中1で男が欲しかったのか」「中1で出会い系サイトで知り合う女の子は、もう女の子じゃない」という箇所で、少女が性的関心を持つことに否定的だと言える。

思春期の男子は性的関心を持つことは一般的とされている(その弊害で性的関心を見せない男子は「一般的ではない」と嘲笑などの差別を受けることもある)のに、女子だと貞操観念を持つべきというのは、おかしい。

こういった点から、「未成年」「女性」という二重の規範で女生徒への批判的な視線が、小池氏の当該ツイートには備わっていると言える。未成年が欲望を抱くことについては、小池氏はブログで、「思春期特有の自由になってみたいという憧れ」という表現を使い、少女の欲望を認めているようにも読めるが、女性の欲望に対する抑圧的な考えについては触れられていない。

このような規範が女性に向けられるのは、まだまだ一般的で、小池氏(と、その家人)に限らない考え方ではないだろうか。成人男性が性的欲望を抱くことは問題視されず、むしろ、例えば浮気について「男だったらしょうがない」といった文言で肯定的に語られることが多い。少女であれ大人の女性であれ、性的関心が芽生えたり、欲望を抱くことは決しておかしくはない。出会い系サイトの利用を推奨するわけではないが、倫理や貞操の問題として縛られるいわれはない。

小池氏はブログで、自身が「変わったところ」として、「世の中には、少女を食い物にしたい男がいくらでもい」て、「僕はそんな男たちの一人ではないという意識が、僕を傲慢にさせたのでしょう」という気づきを述べている。そして「子どもは社会が守るもの」と大人の責任への問題意識が欠落していたことを認め、謝罪している。その上で、氏は「何があっても女子中学生や女子高生は『出会い系サイト』等にアクセスするべきではない」と書いている。この点が、氏の「変わらなかったところ」のようだ。

直面しているのは軽率な断罪

粗探しをして小池氏を叩くことが目的ではないので、ここから話を発展させたい。確かに、携帯電話会社によるフィルタリングサービスもあるが、果たして未成年に対する出会い系サイトの使用禁止などのアクセス制限にどれほど効果があるのか? ということを考えなければいけない。

成人されている読者は思春期のころを振り返っていただきたいのだが、レンタルビデオショップや書店の十八禁コーナーへの立ち入りや、十八禁のウェブサイトを閲覧したことはないだろうか? 大人による危険のフィルターを内面化しながらも、同時に反発を覚えたり、または好奇心が勝り、禁止事項に手を出してしまうという経験は決して特殊なことではないと思う。

禁止や注意の喚起だけでは不十分で、それが明示されていることでかえって、出会い系サイトを利用する未成年はどんな被害にあっても自己責任とされてしまう可能性がある。子どもの権利を軸に、どこからを「自由」とし、どこからが「保護」とされるのか、を考え続ける必要がある。

そこで2.だが、「現在の生活環境の困難からの逃避」という目的で、出会い系サイトを使う子どもたちもいると考えられる。KSBの本事件報道によると、女子生徒は、容疑者に「誘拐」される前にすでに家出していたという。その家出願望の理由については明記されていないが、親や保護者からの家庭内暴力や、貧困といった環境的な要因かもしれないし、何らかの満たされなさや孤独を埋めるために「ここではないどこかへ」と手を出した可能性もある。本件に限らず、学校や家庭以外の場所に救いを求める福祉環境が整っていなかったために、子どもたちが出会い系サイトを利用する、というケースはあり得るだろう。

筆者が目にした本事件報道では、「女子生徒の家出願望の理由」、「容疑者と女子生徒の親密さ」、「容疑者が女子生徒に強要したのかどうか」といった肝心の事件背景で不明な点も多い。そこで、「女子中学生がネットを通じて知り合った成人男性に誘拐された」と三十文字足らずでまとめられてしまう報に、どういった社会的意義があるのか? という点について考えたい。

インターネット利用の規制や、大人からの搾取や暴力にさらされる可能性の警鐘が報道理由だとしたら、今ひとつ考えが足りない内容に思われる。社会問題として児童福祉や保護について考える機会の提示だとしても情報に欠ける。

女子生徒の意志や容疑者との関係性がどのように作用して、双方の行動動機が生まれ、本件のような「誘拐」事件となり、社会問題となって立ち上がるのか。そんなことをわたしたちは報道を通して考えることができる。だから、メディア側は、いったい何のためなのかを問いながら、報道内容を考えていってほしい。

2月29日の山陽新聞 digitalで、女子中学生の「わいせつ目的誘拐」で、岡山県内で40代男性が逮捕されたという報道があった。少女は岡山県在住で容疑者は兵庫県在住という点、容疑者と女子中学生が出会い系サイトで知り合った点、その後ふたりが「LINE」でやりとりをしたという点、など小池氏が言及した事件と類似性が高い。しかし、こちらについては、虚偽で女子中学生が誘い出され、恫喝され、暴行を受けたと、明らかに暴力的な誘拐であることが報道からもわかる。

一方で、21日に報道された「誘拐」事件の場合、先述の通り、少女と容疑者の関係性など事件背景に不明な点が多い。5.で示したように、小池氏のツイートでは、「馬鹿な男」と斬って捨てられていたが、事件背景が明るみに出てから容疑者を断罪しても遅くはない。もちろん、少女の家出に同情の余地があり親身になって幇助したのだとしても、その後、児童相談所に行くとか対処の仕様はあり、連れ出した責任を問われても仕方がないところはある。

小池氏に限らず、我々「大人」も、インターネット利用で簡単にニュースのヘッドラインを目にし、流し読みした情報でわかった気になり、安易に事件の渦中の人々を断罪してしまう可能性がある。その点を情報の受け手も肝に銘じ、判断を保留する忍耐も必要なのではないだろうか。
鈴木みのり

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