選択的未婚出産を阻む、2つの困難 七尾ゆず『おひとりさま出産』にみる多様な女性の生き方

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七尾ゆず『おひとりさま出産』(集英社)

七尾ゆず『おひとりさま出産』(集英社)

 こんにちは、さにはにです。今月も漫画を通じて女性の生き方について考えるヒントを探したいと思います。よろしくお願いします。

 今回ご紹介するのは、七尾ゆず先生の『おひとりさま出産』(集英社クリエイティブ)です。2014年に第1巻、2015年に第2巻が発売され、現在『office YOU』にて好評連載中の本作は、年収200万円以下でひとり住まい、独身でアラフォーの漫画家ナナオが、「女のタイムリミット」と「子どもが欲しい」という葛藤の中で、未婚のまま妊娠・出産するというコミックエッセイです。

 子育てや妊娠・出産の経験を題材にした漫画作品は多いですが、本作の特徴は、「独身」「ワーキングプア」「ひとり住まい」など一般に「子育てには適さない」とされる環境に身を置きながら、「計画的」に子どもを持つ顛末が描かれている点にあります。主人公であるナナオは、その過程の中で世間の常識と戦いながら自分の考える子育て観を展開し、実践の道を探っていきます。ただならぬ苦労に満ちたエピソードが多く綴られるのですが、『のだめカンタービレ』(講談社)で有名な二ノ宮知子先生を彷彿とさせるシンプルながらしっかりとした画風とコミカルなタッチのせいか、危なげなく、楽しく読み続けることができる作品となっています。

 ナナオのように結婚をしないで子どもを持つ女性は、欧米ではそれほど珍しくありません。その大きな背景として、フランスの民事連帯契約(PACS)に代表されるように、「カップルで協力して妊娠出産子育てをしていて、法的な権利も持つけれど、結婚はしない」という選択肢を公的に認めるという社会設計を持つ国が近年一般化している点があげられます。また、「交際相手はいないが子どもは持ちたい」ということでドナーから精子の提供を受けて妊娠出産に至る「選択的シングルマザー」が最近増えてきている点を踏まえておく必要もありそうです。「選択的シングルマザー」は、現在ではアメリカに15万人はいるともいわれています。

 本作のナナオの場合、交際相手であるミウラとの間に子どもをもうけていて、ミウラ自身も父親として振る舞おうとしているところがありますので、父親が存在しない前提に立つ選択的シングルマザーとはいえなさそうです。しかし、借金を抱えていてほとんど家にいない、というか一体なにをしているのかもよくわからないミウラに経済的/実質的支援を期待できない点で欧米流の「非婚カップル」とも異なっています。養育全般の責任は母親が持つが父親との交流は保つというカップル関係を、結婚しないで作っていきたいというナナオの展望は周囲からなかなか理解されず、彼女はさまざまな困難にぶつかることになります。

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