選択的未婚出産を阻む、2つの困難 七尾ゆず『おひとりさま出産』にみる多様な女性の生き方

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いびつな社会制度に奮闘させられるナナオ

 もうひとつの困難としてあげておきたいのは、経済面です。貯金も実家の助けもなく母ひとりで子育てをすることの難しさは、「女性の貧困」が取り上げられるようになった近年、広く知られている通りです。

 ナナオは漫画とアルバイトで食いつなぐ生活を長らく送っていたようです。年収は200万円以下。当然ながら金銭的な余裕はありません。ナナオは「子どもが産まれるまでに貯金100万円」を目指して、各種公的扶助の利用はもちろん、アルバイト先での食品廃棄物の持ち帰りをはじめとしたさまざまな節約生活を駆使して奮闘します。インターネットや相談制度を利用していくつかの社会保障制度に申請しようとするものの、中途半端に所得があるためになかなか満額で利用することができません。漫画ではスキップされていますが、書類を揃えたり窓口に出向いたりなど、いろいろ手間がかかっただろうと思われます。

 社会福祉制度にはいくつかの側面があります。まず「お金を稼げる人」から税金を徴収して「お金を稼げない人」に渡すという再配分の機能は欠かすことができない前提です。これが正常に機能しているために、仮に働いていなくても子どもを持つ親が、社会福祉制度を利用して、貧困に陥らずに生活ができる国は少なくありません。

 OECDの調査によれば、それぞれ福祉のスタイルが異なるアメリカ、フランス、フィンランドでは、働いているひとり親家庭の方が働いていない場合よりもはるかに貧困率が低いという共通点があります。ところが、日本の場合は逆で、働いている方が貧困率が高いという数字になっています。日本の再分配機能は働いているほうが割を食うといういびつな構造になっているわけです。

図2

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 ナナオに限らず、「子どもが欲しい」という希望に対して、計画性や経済性を理由に待ったをかけるのは実にたやすいことです。「教育費を準備していないのは無責任」「高齢だと妊娠しにくくなる」「相手を見極めて結婚するのが先」「仕事が安定してからにしろ」「職場に迷惑をかけてはならない」などなど、出産のタイミングを糾弾する考え方はいくらでもあるため、「産んでも良い」時期など実際にはとっくに無くなっているのが日本の現状なのではないかと思います。それを承知の上で、とにかく子どもを持つと決めたばかりでなく、「ビンボー人はあくせく働くより他ない」と言いながら、医師と相談し、スケジュールを組み、アルバイトに励むナナオの姿は大変立派なものです。しかしだからこそ、国内の社会制度のいびつさを指摘せずにはいられません。

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