多様な「女性の生き方」が出始めている
経済状況や世間体にとらわれないで、子どもを持ちたいと思った相手と自分が決めたタイミングで子どもを持ちたい。人として当然の選択を当たり前に実践することが現在の日本でいかに困難なのかという事実を本作は突きつけています。しかし本作の論点からさらに一歩踏み込んで、「子どもを持つ」のは人生においてそこまで重要なことなのか? という点にも目配せしておきたいとも思います。
ちょうどタイミングよく、「どんなに仕事ができたとしても、30代以上・未婚・子ナシは女としては負け犬だ」との提言で話題となった『負け犬の遠吠え』(講談社)の筆者である酒井順子さんが『子の無い人生』(KADOKAWA)というエッセイ集をつい先日出版されました。酒井さんは子どもがいない人生について「一種の清々しさが伴う」と論じます。「年をとったら子に頼り、死んでからも子孫から大切に祀られる」と信じる伝統的家族観は、それにすがることで老いや加齢に向き合うことができるという反面、人によっては負担にもなり得ると酒井さんは言います。
酒井さんと同い年である小泉今日子さんが、伊吹有喜さんの『四十九日のレシピ』(ポプラ社)の書評で「やり残したことがあるとしたら自分の子供を持つことだ」と語ったり、山口智子さんが「FRaU 3月号」(講談社)でのインタビューで子どもを持たなかったことについて「一片の後悔もない」としたうえで選択肢の多様性についてコメントするなど、女性と出産について多様な選択肢を実践する先駆者がようやく出始めました。なによりも大切なのは、お互いの選択を尊重するだけでなく無理のない人生を誰もが送ることができる社会を作ることでしょう。しかし社会が整うのをただ待っている訳にはいきません。自分の特性を見つめて個人的な決断をくだす勇気の大切さを、本作は示してくれているように思います。