「子供がかわいそう」の声も気にならなくなった。結婚、育児、仕事、婚外恋愛、家族…告白の書『かなわない』植本一子の“いま”/インタビュー前編

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植本一子

植本一子『かなわない』(タバブックス)

 写真家の植本一子(うえもと・いちこ)さんが今年2月に上梓したエッセイ集『かなわない』(タバブックス)は大きな反響を呼び、早くも重版がかかっている。そこに収録されていたのは、2011~14年の育児と仕事の日記と、いくつかのエッセイ。家庭での鬱屈と、婚外恋愛、自らの原家族、特に母親との確執などが正直に綴られ、圧倒されながらも一気に読みきってしまう一冊だ。

 植本さんは24歳年上の貧乏なラッパーECD(石田さん)と08年に結婚し、同年11月に長女を、10年6月に次女を出産した二児の母であり、音楽畑を中心に活躍するフォトグラファーだ。下北沢にて、小さな撮影スタジオも開いている。

 実名で、仕事関係者も、子供を通じたつながりの関係者も、親も、旦那さんも、かかわりあう誰もが読むであろう場所で、赤裸々な告白を続けた植本さん。そのことにまず私は驚かされた。そこで今回、著者に『かなわない』で描かれた日々から数年後の今、自身や周囲がどう変わったのかを伺った。

自分の子供が羨ましかった

――『かなわない』は今年2月に発行になりましたが、収録されている文章は2011年の日記からですよね。5年前の、震災直後から育児が特につらかった時期を今ここから振り返るのは、どうでしたか。

植本 原稿のチェックをするのはしんどかったですね、すごい。messyに掲載してもらったレビューで、何箇所か抜粋されていたところあるじゃないですか。特に子供につらく当たっている描写、「誰か助けてください!」とか。あそこを読み返すのが厳しかったかな、一番。うわあああああって(笑)、思い出しましたね。

――通り過ぎたこととして、今は振り返れる?

植本 うーーん、通り過ぎたこと、ですねえ、今は。そうですね、通り過ぎましたね。ははは。またああいう日々って、訪れるのかな……? あのころは、子供たちがコントロールできない時期(ほぼ2歳違いの女児たちが1~4歳だったころ)で、自分がつらくなってしまうっていうのが大きかった。今は話せばわかってくれるっていうか、意思疎通がとれるから、すごいラク。子供たちが泣き喚いてこっちもキィーッてなったりは、なくなりましたね。でもああいうこといっぱいあったな、すっっっごい大変だったなあ~って、原稿を読みながら振り返りましたね。

――植本さんのそういう「子供がしんどい」描写は貴重だと思うんです。というのも、小さい子供の育児をしている渦中から、よそのお母さんを横目で見ると、みんなそんなにつらくなさそうというか、優しくておおらかで子供を尊重する良いお母さんに見えちゃって、ますます自分だけがダメ母に思えて落ち込む……という、勝手な思い込みによる負のスパイラルに陥ることがあるんですよね。

植本 ああー、そう、わかります。あるある。見えますよね。世の中のすべての人が幸せで理想的でいい家庭、自分にはないものをみんなちゃんと持ってるように、思える。私もそう思っちゃってましたね。(インタビュアーは)子育て、大変でしたか?

――そうですね、私は4歳の娘とうまく向き合えなくて参ったな~と自己嫌悪する日々がまだ続いてますね。だからこそ植本さんがここまで赤裸々に、自己嫌悪の詳細をブログに書いてさらに出版したということに衝撃を受けました。こういうことを書けば、確実に、批判の声も届くじゃないですか。

植本 「子供がかわいそう!」っていう批判ですよね。

――そう、それです。

植本 この本を出して最初に私のところに来た長文の感想メールが、まさにそれだったんですよ。「あなたなんかに育てられる子供がかわいそうです!」「子供が大きくなってこの本を読んだらどう思うでしょうね!?」って。「読んでるうちに暗い気分になった。自分にも子供がいるけど、自分は普通のお母さんで良かったと思ったッ!(怒)」と。でもその人にも、長文でそういうメールを送らずにはいられないような“何か”があるんだろうなと想像するんです。たぶん“何かある”人はいっぱいいると思うんですよ。その“何か”を、ブログや本に書かれたことが刺激したのだろうから、それはその人の問題であって私の問題ではないですよね。だからそういった批判は、特に気にならないです。

――石田さんと離婚する/しないという話し合いをしていたことは、お子さんたちは理解しているんですか。

植本 してないですけど、気付いていたんじゃないかな。私、好きな人との恋愛がうまくいかないとき旦那さんに当たり散らしていて、キィーッてなっちゃっていたから。それに旦那さんという“当たる人”が不在のときは、子供に対しても当たり散らしていたって、今になって思う。すごくひどい話ですけど、上の子に対して怒りが湧き出て止まらないときに、一体何で自分がそんなに怒っているのか落ち着いて割り出したら、その感情の大元は「顔が旦那に似ているから嫌だ」った。さらに私の実母にも、「似ている」。その怒りは、旦那さんにぶつけるべきだし、母への怒りは母にぶつけるべきだし、私はそこを区別できていなくて間違えていました。上の子に申し訳なかったですね。

――本当に顔だちが似ているのかもしれないですけど、旦那さんやお母さんの姿をお子さんに投影していたのでは?

植本 それもあったかもしれない。もうひとつ、私は自分の子供を羨ましく思っているところもあったんです、あとからカウンセリングで振り返ってみれば。

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