「同性愛」という言葉に「形」を与えれば怖くない。/『同性愛は「病気」なの?』牧村朝子氏インタビュー

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「気持ち悪い」と感じる人が苦しみを抱えている

―― 牧村さんご自身は、同性愛診断をされたことはありますか?

牧村 自分のセクシュアリティに悩んでいた時期、10代から20代前半ごろまでにいくつかしたことがあります。実際に男性とセックスしてみるとか、いわゆるレズビアンもののAVを観て自分がどう感じるかを試したりとか。それから、カウンセラーさんに話を聞いてもらいました。でも、同性愛で悩んでいるということは言えなかったので、適当な悩みをでっちあげてしまって、解決にはならなかったですね。後は、スピリチュアル系の催眠療法に行ったことがあります。そのセラピストの方にも「同性愛で悩んでいます」とは決して言えなかったのですが、「繰り返し見る夢があります。催眠をかけて下さいませんか」と頼んで、自分の心の中を見てもらおうと思いました。

―― 催眠療法はどうでしたか?

牧村 催眠療法、面白かったです! セラピストさんに「今からあなたは自分じゃない存在を自分としているビジョンを見るでしょう」みたいなことを言われて、催眠をかけられたんですね。そしたら裕福ではない、いわゆる非モテな感じのドイツ人の仕立て屋の男性が見えてきたんです。女性とうまく話せないのだけど、ある日、綺麗なドレスを持ってきた女の人を好きになる。でも、自分が直したドレスを着た女性が他の男性と歩いているところをみて「これが俺の人生か。こうやって窓の外にあるキラキラした世界を見るしかないんだ」と絶望し、ガラスのように、何かを隔てるものが怖くなるんです。それでかけている眼鏡を割ってしまう。頭がおかしくなっていることに気付いて入水自殺をするのですが、水の中から眺めた水面がまたガラスのようで……。「俺は一生ガラスを越えられないまま死んでいくんだ」と思う。そんなビジョンでした。

当時は「私は気持ちの悪いレズビアンで、幸せそうな異性愛者の世界を、ガラスのこちらから側から見るしかない」と思っていたので、その表れだったのかもしれないです。

―― そういった不安があるからこそ、診断法を試すことになるのかもしれません。まえがきで「世界の同性愛診断について調べることをやめられなかった」と書かれていますが、その原動力はどこからきていたのでしょうか?

牧村 楽になりたかったんです。同性愛という概念をきちんと知らなかった10代のときはとても苦しくて、怖かったんですね。「治さなくてはいけないものだ」という、もやっとした悪いイメージを持っていました。でもきちんと調べてみたら、もやっとしていたイメージにちゃんとした「形」ができて、怖くなくなっていったんです。今もそれが原動力になっています。

―― 牧村さんご自身が、同性愛に対して「怖い」と思っていらしたんですね。

牧村 私自身だけではなくて、母もそうだったと思います。母は、私がテレビで「私、レズビアンなんです」って言っているのをたまたま見て、私のセクシュアリティを知ったんです。そうしたら「あなたは“レズビアン”なんて不謹慎なことを言っていいの?」と言われてしまいました。

でも、そのことで母を責めるつもりはありません。母の中にも「レズビアン」っていう、もやっとした悪い、いやらしいイメージがあって、私がそれを言っているようにしか見えなかった。でも、そこから掛札悠子さんの名著『「レズビアン」である、ということ』(河出書房新社)など、色々な本を読んでくれて、ちゃんとした「形」を持ってくれたみたいでした。

―― 私が親からそんな風に言われたら、親を責めてしまうと思います。

牧村 母を責めない方が楽だと感じたんです。それに、「レズビアン」って辞書に載っている定義は一応ありますけど、実際に「レズビアン」と聞いて浮かんでくるイメージや湧いてくる感情って人それぞれ違いますよね。だから「“レズビアン”なんて気持ち悪い」と言われても、「私が“レズビアン”だから気持ち悪い」ではなくて、「その人の抱える“レズビアン”のイメージが気持ち悪いんだ」と思うんです。その人の気持ちと、自分を切り離しています。それに、世の中に気持ち悪いものがたくさんあればあるほど、その人が苦しいだけじゃないですか。それは私ではなく、その人の苦しみです。だったらその苦しみを減らしたほうがいいと思うんですよね。知ることは人を楽にすると、私は考えています。

―― 「知る必要はない。自分には関係ない」という人もいます。

牧村 私には「全ての人がセクシュアルマイノリティについてきちんと知るべきだ」と声高に叫ぶ気はありません。「あの人たち気持ち悪くて怖いよね、でも私たちは仲間で安全だよね」という風に、狭い世界で生きていくのもその人の自由なんだと思います。セクシュアリティについて悩んでいた頃の私も、同じように「ここだったら安全、同性愛者は気持ち悪くて怖い」と思っていました。でも、そうやって生きてきた結果、楽しくなかった。狭い世界の中から出られずにいる状態って、もったいないじゃないですか。

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