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セックスや恋愛の「べき論」に頼らない。/『同性愛は「病気」なの?』牧村朝子氏インタビュー

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子どもの「知る権利」が奪われている性教育

―― 子どもの性教育でいうと、子どもが小さいうちから性教育を行うべきだという話もあります。牧村さんは性教育についてどのようにお考えになっていますか?

牧村 私もできるだけ小さいうちから教えるべきだと思っています。私自身が受けてきた性教育で役に立ったことは、「コーラをまんこにぶっこんでも避妊はできません」ということだけでした。それ以外はむしろ私のことを傷つけたと思っています。例えば小学3年生のときに初潮がきたんですが、当時、生理が何なのかということを教えてもらっていませんでした。なのでまんこから突然血が出てきて、すごく怖かったです。「私は死ぬのかもしれない……」って思いました。

―― 私は小学5年生ぐらいで初潮がきたので、ある程度母から教えてもらっていました。でも小3ぐらいだと、全く知らなかったですね。生理に関する教育は、小5ぐらいから徐々に、という感じでした。小3で何も知らないまま初潮を迎えたら絶対に恐怖感を覚えたと思います。

牧村 怖かったです。勇気を出して家族に伝えたら、いきなり「おめでとう」って言われるだけで、何の説明もしてもらえませんでした。その後、小学5年生で、初めて“女子だけ”視聴覚室に集められて。

―― ああ、私の学校でもありました。“女子だけ”集められるっていう。

牧村 「生理が始まっているかどうか書いてください」っていう何のためにやるのか分からないアンケートを書かされました。その後、視聴覚室から出てきた女子が持っているナプキン入れを、男子が取って笑いものにしていました。どうして男子に教えなかったのって思いますし、本当に嫌な思いしかなかったです。私には、早い年齢のうちから知る権利があったと思います。“エッチなことを子どもは知ってはいけない”という考えのもと隠されてきたことに対して、私は恨みを持っています。知っていれば怖がらずにすんだはずなんです。それを奪われていたんだと思います。

「レズビアンって何?」の時代を目指して

―― あとがきには、牧村さんが「同性愛者」という言葉の歴史を調べていたときに国会図書館で出会った、あるギリシャ語が紹介されています。ネタバレになるのでその意味をここでは書きませんが、あれはどのような意図だったのでしょうか?

牧村 検索サイトに、ひとつひとつギリシャ語を打つと、あの言葉の訳が出てきます。そうやって知るためのアクションを起こしてほしかったんです。そうしたらこの本より断然広い世界が待っています。その世界へのドアを最後に置いておきたくて、書きました。

―― 執筆前と執筆後で、現代に対する見え方は変わりましたか?

牧村 だいぶ変わりました。今、当たり前とされている知識がありますよね。例えば、「“同性愛”という言葉がある」ということ、「人には多様な性的指向がある」ということ、「同性愛は病気ではない」ということ。今までの私はそれを、「当たり前じゃん」と思っていましたが、そうではないと感じるようになりました。その1つ1つの知識と向き合うときに、それを成し遂げた人たちの顔が頭に浮かぶようになったからです。ウルリヒスも、ケルトベニも、山本宣治も、私は一人たりとも会ったことはありませんが、彼らに大きな影響を受け、それぞれの知識に重みを感じるようになりました。

「人には多様な性的指向がある」って、すごく無味乾燥な事実です。でも、そこに至るまでにずっと歩き続けた人たちがいて、その先を現代の私たちは歩いているんだ、と感じます。「一人じゃない」という感覚があるし、ビックネームな学者たちが人間に見えるようになるんです。

刊行後にもらって一番嬉しかったのは、「人間ってめっちゃバカだけど、みんな一生懸命なんだ」というコメントでした。そうだよねって思って。時代の流れの中で、みんな進みたい方向は違って、私も全力で間違っているのかもしれない。でもとにかく、それぞれが自分の正しいと思うことを一生懸命するのっていじらしいし、そういう歴史が現在に繋がっていることを、すごく愛おしく思います。

―― 牧村さんご自身も、先人たちが作ってきた道をまた作っていく一人になられると思うのですが、何か大きなビジョンはあるのでしょうか?

牧村 私の夢は、おばあちゃんになったときに妻と2人で縁側に座ってお茶を飲みながら、女の子のカップルに「昔、おばあちゃんはね、レズビアンってことをカミングアウトして、文を書いたり話したりするお仕事をしていたんだよ」って話したら、女の子カップルから「レズビアンって何?」って言われることです。

今って「セクシュアルマイノリティとしての自分」に辿り着くために、多くの人が人生の大部分を使ってしまっている気がします。トランスジェンダーの方だったら、トランスすることが人生になってしまっている。例えば「女とされて生まれた自分が、どうやって社会的に男になるか」ということを人生の目標にしたりね。でも、人生ってそれだけじゃないと思います。そのステップを前の世代の人が片付けておいたら、次の世代の人は別のことに時間を使えるじゃないですか。私がやりたいのはそれです。「セクシュアルマイノリティとしてどう生きるか」ということを考えなくていい社会になってほしい。そのために自分のできることをしていきたいです。
(聞き手・構成/北原窓香)

<前編>「同性愛」という言葉に「形」を与えれば怖くない。/『同性愛は「病気」なの?』牧村朝子氏インタビュー

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