――間近に迫る修繕や、リフォームなど、中古マンションならではの大変さもあると思いますが、新築を買おうとは思わなかったんですか?
丸田「マンション購入当時は、株式上場会社で働いていたので新築も買える収入がありました。でも新築にこだわれば、今のような好立地で安価な物件は見つけられません。そうなると転売や借り手を見つけるのも難しくなりますし、何よりローンの金額が高くなるので、フリーランスになろうとは思わなかったでしょうね」
――ご自身の身軽さを確保できるのが、中古物件だったということですね。
丸田「今となっては高いローンを支払いつづけるために企業に所属する、安定第一の暮らしもあったと思います。しかし、会社の事業再編もあり退職を決めたのですが、フリーランスで仕事をするのは、なかなか大変。保証がないなか、結果を出しつづけなければならないのがキツいですね」
――私もフリーランスなので、その辛さはよくわかります! 先々を考えると貯金もしたいけど、それだけの金銭的余裕が持てないですよね。
丸田「私たちの年代は老後の公的年金が心もとないので、仕事をリタイアする頃には、ローンを払い終わっていたいと思います。ただ、繰り上げ返済は、なかなかする気になれなくて」
手元に残る現金の重み
――いったい、なぜでしょう?
丸田「実は私がマンションを購入して引っ越して来た次の日が、3.11だったんです。地震があったときには職場に居たのですが、あまりの激しい揺れに『私のマンションは、絶対に崩れてなくなっている!』と思いました。古いマンションですからね。結果的に造りは堅牢だったようで、3.11は持ちこたえてくれましたが、地震は今もトラウマです。もしもまた地震が来てマンションが崩れてしまったら、手元に残る現金だけが私の資産になるわけで、すべてをローンの支払いに充てる気になんて、なれないんです」
たしかに東日本大震災が起こったことによって、私たちは日本に住むことと地震の可能性を、切り離して考えられなくなりました。その意味では中古物件は新築に比べればリスクが大きいのも確か。
ただ、リスクは地震だけではありません。仕事を失えば多額のローンがリスクになるし、年金が破綻すればずっと家賃を払いつづけることがリスクになる。そのなかで、自分はどのリスクを取るのか? 考えて選択しなければならないのだと思いました。
「人生には不安なこともありますが、マンションに関しては買って良かったと思いますし、私は納得して住んでいますよ」
ときっぱりと言って、丸田さんは仕事に戻って行きました。
あなたは何を選択し、どんな住まいを選びますか?
(蜂谷智子)
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