社会的正義よりも、社会全体の新陳代謝を
当然のことですが、企業はボランティアや社会正義のためではなく、利益を上げるために動きます。顧客企業にしてみれば当然のことながら実績のある人と仕事をしたい。そして、仕事を引き受けている側は、顧客満足度を上げるためにも、確実に成果を出すためにも、やはり実績のある人をアサインしたいでしょう。
男性上司が「女性にも活躍してほしい」と思っていても、経験のある人に任せることで確実に案件を成功させたいと思えば、結果的に層の厚い年次が上の男性をアサインすることになります。つまり、年功序列だけではなく実力主義だとしても、「実績や経験のある人」を中心に仕事を回そうとすると、層の厚い年次が上の男性に仕事が偏っていきます。40代以上の総合職女性の絶対数が少なく、該当する女性が圧倒的に足りないからです。
つまり、この「経験値の問題」は女性だけの話ではなく、若い男性にも言えることなのです。
高度成長期は労働人口に占める若者の数が多く、会社の中でも未経験の若者の占める数が多かったため、誰にも経験を積む機会が与えられていました。ところが、労働者の平均年齢は年々上がり続け、今はわざわざ若い人にチャレンジさせるようなリスクを犯さずとも、ある程度経験のある中高年男性だけで仕事を回せてしまいます。
すでに経験のある人にさらに仕事や成長機会が集まる環境では、若い人の成長機会が限られます。年功序列システムの下では、今の30代が50代になったとき、今の50代よりも仕事の経験値が少ない可能性があります。
今、政府が推進している「女性活躍推進」は、女性を活躍させる点に注目が集まりますが、男女不平等の是正という社会正義的な観点よりも、「日本企業に人材登用におけるリスクテイクを促し、経営の活性化を促す」こと、そのことにより社会全体の新陳代謝が促されるかもしれない可能性にもっと注目が集まるべきです。
今、日本企業の女性役員比率は1.2%で、先進国の中ではダントツの低さですが、内閣府は2020年までにこれを30%にすることを目標にしています。この数値の実現可能性はさておき、女性管理職・経営者を増やそうと考えるのなら、短期的には若い女性を中心に採用数を増やし、彼女たちに積極的にチャンスを与えていくこと、長期的には役員・管理職に入っていく年齢を下げ、実力よりもポテンシャルを重視する登用が必要です。
女性管理職・役員比率をあげるという施策は、人材の若返りを通じて、日本企業の競争力や永続性を高める試みと言えるでしょう。女性管理職・役員の数を増やす試みは、高齢化が進み、社員の平均年齢も上がっている中で、経験値の少ない層の挑戦環境を整え、人材の新陳代謝と世代交代を促すことになるのではないかと、私は少なからぬ期待を持っています。
(参考)
内閣府男女共同参画局 「2020年30%」の目標の実現に向けて
日本労働組合総連合会 労働力構成(元データは賃金構造基本統計調査)
共同通信『2016/1/23 女性総合職1期の80%退社 雇用均等法30年、定着遠く』
浅尾 裕、2009、『男女間賃金格差問題読本―「説明されるべきもの」から「女性従業員の活躍度を示す指標」へ』独立行政法人労働政策研究・研修機構
リクルート『ワーキングパーソン調査2014』