嫉妬深い女性というステレオタイプ
ここのところ労働問題と病気、ブス、生命倫理や同性愛者差別など重い話題ばかり扱っているので、今回はもう少し気楽な話をしたいと思います。テーマは「モテ」です。
そもそもモテるモテないという話自体いじめや偏見に結びつきやすいので、これだけでは全然愉快に見えないかもしれません。むしろ気が沈むようなテーマだと思う方もいるでしょう。嫌な話にならないよう、気をつけようと思います。
女は嫉妬深くて他の女の足を引っ張るとか、女の友情は男に比べて長続きしない、というようなことを自明の理であるかのように言うのが好きな人がいます。これは単なるステレオタイプで、たいして根拠があるものではありません。社会言語学の研究者であるファーン・ジョンソンによると、1970年代の後半になるまでそもそも女の友情についてはほとんど研究がなく、女は陰湿だとか、女同士が親しくすると男との関係に支障が生じるとかいった「男の世間知」ばかりが信じられていたそうです (Fern Johnson, ‘Friendships among Women: Closeness in Dialogue,’ in Gendered Relationships, ed. by Julia T. Wood, Mayfield, 1996:79-94, p. 79、拙訳)。
最近は女同士の人間関係についての研究もありますが、あなたが友人のいる女性であれば研究成果を紹介するまでもないでしょう。友を思いやる気持ちは性別や性的指向で左右されるようなものではありません。1991年公開の『テルマ&ルイーズ』のような古典的なものから2015年公開の『駆込み女と駆出し男』など新しい作品まで、映画などで女同士の友情や連帯を描くものもたくさんあります。また、英語版のハフィントンポストには女の友情についての記事一覧があり、実は女の友だち付き合いというのは男が想像しているようなものとは結構違うというような記事がいくつも読めます。
悪いモテ女、いじめられるモテ女
一方、いまだに女の嫉妬は好んでとりあげられる主題です。「悪女」「妖婦」といった類型がありますが、性格が悪くて友だち甲斐のないモテる美人が出てくる作品はたくさんあります。成熟した色っぽい悪女から、アメリカの学園映画に出てくるようなライバルを蹴落としたり他の子をいじめたりするのにばかり頭を使う若い「女王蜂」(Queen Bee)キャラまで、枚挙にいとまがありません。
あまり可愛くない女が可憐なモテ女に嫉妬するという物語もたくさんあります。日本では『源氏物語』の桐壺いじめが有名ですね。ディズニーアニメ『シンデレラ』(1950)のようなおとぎ話にすら、ぱっとしない義理の姉に美人のシンデレラがいじめられるモチーフがあります。
私はこうした陳腐なステレオタイプにはうんざりしています。個人の経験は限られているので一般化はできないかもしれませんが、分別ある大人であれば、とくに性格に問題が無いかぎり美人だとかモテるというだけで同性に嫉妬したりはしないでしょうし、同性の間で人望のあるモテ女もたくさんいます。どこかに美しく友誼に篤いモテ女が出てくる愉快な作品はないものでしょうか……?
実は、思いもよらない古典的な作品の中に、こうした女性が登場することがあります。今日の本題は、こうしたフィクションに出てくる「友だちにしたいモテ女たち」を褒めることです。ここからはポジティブな感じでオススメの作品を紹介していきましょう。