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ホモソーシャルをひるむことなく悪と描いた『インサイダーズ/内部者たち』

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この一言を聞いたとき、もとは自分を裏切った組織への復讐心で動いていたサングと、貧しいながらも苦労して検事になり、コネがないために出世できなかったジャンフンは、自分たちが「取るに足らない小さきもの」同士であり、言葉を簡単に曲げられるほうの人間であることを知るのです。虐げられたものに観客がシンパシーを感じる瞬間が、権力者の一言によってもたらされるのです。

そして、その瞬間から、私たちはアン・サングとウ・ジャンフンの味方になります。さらにこの映画のすごいところは、それでもまだ二人の真意が読めないところです。様々な出来事を乗り越え、最後にやっと「そういうことだったのか!」とわかる瞬間までは、ふたりの行動の真意はどこにあるのだろうかとハラハラさせる展開が続きます。2時間があっという間に感じることでしょう。

それにしても、この映画では、権力を持つ者と、持たざる者の対比があまりにも鮮やかです。例えば、権力を持つ者、次期大統領候補チャン・ピルと、ミライ自動車のオ会長、「祖国日報」主幹イ・ガンヒの三人の酒池肉林ぶりは、酷すぎて笑えてくるほどです。

韓国には「爆弾酒」というものがあります。「爆弾酒」とは、ビールなどを注いだコップの上に箸を渡し、その上にウィスキーなどの強い酒を入れたショットグラスを乗せて、なんらかの振動でグラスをビールの中に落とし、混ぜて飲むことを言います。

「爆弾酒」は、アルコール度数も強く、ハラスメントにもつながるということで、韓国でも問題になりつつある飲み方です。軍隊から始まり、政治家などの接待で広まったこの習慣は、ただでさえホモソーシャルを感じさせるものなのに、この映画では、チャン・ピルたちが、裸の女性を侍らせ、ズボンを脱ぎ、自身の男性器をゴルフパッドに見立てて、爆弾酒を作るのですから、もうあきれて笑うしかありません。

渋い重鎮の俳優たち(ドラマ『ミセン』のイ・ギョンヨン、悪役なのにどこか品の良さを感じさせ最後まで観客を翻弄するペク・ユンシクら)が、露悪的なシーンを容赦なく演じることに驚きましたが、ここまでわかりやすく悪を演じてくれたことに感謝してしまいそうになりました。というのも、日本の映画では、悪い側にも何らかの悲しさはある、どっちもどっちという表現になりがちです。しかし韓国の場合、はっきりと、こっちは善、こっちは悪と書いてくれるからこそ、隠されることなく、見えてくる構造があるのです。

反対に、サングとジャンフンが酒を酌み交わす様子のすがすがしいこと! 日中に田舎町の縁側で、安い焼酎を酌み交わし、サムギョプサルや青唐辛子をつまみに、お互いの過去を知り近づいていく。そこに接待の女性の姿はありません。

この映画は、次期総理候補にむらがる大企業やマスコミという権力を持つ側と、権力を持たざる検事としがないチンピラとの戦いを描いていますが、あとになって考えると、女を侍らせて、裸になって酒を無理強いするミソジニーの強いホモソーシャル一派と、関係性に女性を介在させず(アン・サングは女性に酷い任務をお願いしてしまってはいますが、それは同志に頼っているだけで、そこにミソジニーはみられませんでした)、酒は無理強いではなく楽しんで呑むという純粋な結びつきのブロマンス一派の代理戦争だとわかるのです。

そして、最終的には、「権力とは何なのだろう?」と考えさせるところが、韓国映画らしい。今回のコラムでは、あえて注意深く、「権力を持つ者」と、「権力を持たざる者」と書いてきましたが、最後まで見ると、韓国のヒーローはやっぱり、権力を持たざる者ではなく、権力に反する者でないといけないのだと、納得するのです。

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