エンタメ

「女の子」を愚弄した秋元康を<断罪>する  『glee』が私たちに教えてくれたこと

【この記事のキーワード】

リプロダクティヴ・ヘルスライツを奪われた子供たち

秋元氏が「難しいことはなにも考えない 頭空っぽでいい」というイメージと結びつけた女優ダイアナ・アグロンその人のことも付記したい。彼女は映画界にも進出し多くの作品に出演しながらチャリティ活動にも熱心だ。動物保護、同性愛者権利活動を支持しているだけでなく、毎年の自身の誕生日にはLGBTティーンの援助活動、人身売買対策活動などへの寄付を募っている。2011年には米国赤十字主催の日本津波被害者のためのチャリティランにも参加しているのだ。そんな彼女が2014年の国際ユース・デー(世界の子供及び若者の人権保護と社会参画を呼び掛ける日)にグローバル・シチズンシップ大使として行ったスピーチの一部を紹介する。

「28歳にして思うのが、私はとてもラッキーだったということです。私は初等、中等教育にアクセスできる国で育ちました。私はスポーツを楽しみ、希望の進路を追い求めることができました。私はリプロダクティヴ・ヘルスケアにアクセスして、自分が決断した時に子供をもち家族生活をスタートする時期を選ぶことができます。そしてゲイとレズビアンの友人たちは同性婚の権利を全米で獲得しました」

「しかし世界における18億人もの若者たちはそれほど恵まれてはいません。
世界には大人への移行期に、ジェンダー間の平等、教育機会の獲得、公共医療に関する乗り越えがたい困難に直面する多くの若者が存在します」

「すべての少女と少年が学びと夢を追うことにおいて、成長をめざす平等なスタートを切る重要性を皆が理解するよう、我々は努める必要があります。
今こそ今日の十代、二十代の若者たちが求めるものを明言するのに最適な機会です。この要求を軽視することは容認されません。そのことによってその世代そのものをダメにしてしまう危険性があるからです」

ダイアナの言う「リプロダクティヴ・ヘルスケア」とは性と生殖に関する健康管理のことで、主に取り組まれているのが、誰とセックスをするかしないか、子供を産むか産まないか、どのような保険医療サービスを受けるか受けないかに関する女性の自己決定権にまつわる問題である。このリプロダクティヴ・ヘルスライツが女性から奪われている国はまだまだ多く、そしてそれはたいてい女子から教育の機会を奪うこととセットで起きている。教育の機会を与えて個人の自己決定権をもつ重要性を女性たちが知ってしまったら、自分を犠牲にして第三者の思惑どおりに動いてはくれないからだ。

私が秋元氏の歌詞に一番問題を感じたのは

「女の子は恋が仕事よ ママになるまで子供でいい」

という部分である。リプロダクティヴ・ヘルスライツを奪われた少女たちの人生はこの言葉のとおり、思春期や青年期がなく子供からいきなり母になる。そしてそれでいい、と彼が軽々と言い放つことにも暗澹たる気持ちになった。

米国のファーストレディーであるミシェル・オバマが熱心に取り組んでいる活動に”Let Girls Learn(女子教育普及運動)“がある。母親が中等以上の教育を受けることで新生児の死亡率、HIV感染率は格段に減少し、乳児の栄養状態は改善する。それだけでなく自分の世界を広げられた少女がその生まれ育った環境によってその機会を奪われていること自体も問題視しているのだ。その啓蒙活動のために彼女は世界各国を訪問しており、こういった問題意識は先進国の人間なら当然に共有していなければいけない。

秋元氏ほどの立場にいる人間がこういったことも知らないのか、または軽視しているのか。どちらにしろ日本のエンターテイメント界を代表する地位にいるいい歳の大人であるにもかかわらず、彼が勝手に「難しいことは何も考えない」というイメージを仮託した20代の女性が持つ問題意識を、持っていないというのははっきり恥ずべきことだと断言していいだろう。秋元氏は芸能界においても現政権に近い立場にいて来る東京オリンピック開催式にも関わるとの見方がある。これほど浅薄な認識の持ち主が世界に向けて彼のプロデュースによるショーを披露するのははたして適切と言えるのだろうか。

『glee』という作品を愚弄されただけでなく、彼がポピュラーソングを通じて今後も日本の若者たち、子供たちに影響を与え続けること、そして彼の価値観が社会的地位を得る可能性を考えると、これは非常に憂慮すべき事態だと思わざるを得ない。

ただひとつ、これに対して多くの批判があがったことだけが救いである。その中には『glee』のそしてダイアナのファンの若者たちが多くいる。先のダイアナのスピーチの存在もそんなダイアナファンの若い女性がツイートして拡散してくれたものである。実際の彼女のファンたちは彼女の聡明さ、真摯に世の中を変えようとする熱意にも魅力を感じ、それを継承していることを付け加えてこの文章を終えたい。
パプリカ

1 2 3

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。