
Photo by The U.S. Army from Flickr
日本も含め、国際的に非正規雇用者が増えていますが、その多くが女性です。
パート、アルバイトを含む非正規雇用者は正社員との賃金格差に加え、失業保険、社会保障、職業訓練機会などにおいても非常に不利でありながら、首切りがしやすいために不安定な生活を強いられています。このような状況をうけて、労働社会学や経済社会学の分野では、非正規雇用をPrecarious work(不安定労働)と呼ぶようになってきています。
もっとも、前回例にあげたオランダ経済のように、非正規雇用がすべて悪いものというわけではありません。なぜ日本の非正規雇用がこんなにも労働者にとって不利なものなのか、なぜ非正規雇用には女性が多いのか、歴史を振り返りながら考えていきたいと思います。
戦時中に軍隊化された企業
日本で不安定雇用の問題が社会問題として指摘され始めたのは第一次世界大戦の頃でした。満州侵略による軍需景気や海外との市場競争のために急増した臨時工が、大恐慌後に失職したことで起きた「臨時工問題」です。この当時はあくまでも「臨時工」の問題であり、「非正規雇用」という概念で社会問題として指摘されたわけではありませんが、現代の「非正規雇用」と同様の問題を内包していたと言えるでしょう。
第二次世界大戦中は、戦争という「不景気」とは無縁の軍需成長とともに、「勤労」「正社員」のシステムの基礎ができあがった時期でした。
企業は、国家が目的とする「高度国防国家の建設」に貢献する「生産人」の共同体であり、その構成員は「身分」によってではなく、「職分(仕事内容)」で、つまり「生産活動への参加の仕方」によって区別されるという方針が示されました。また、「勤労」は国民の国家に対する責務であり、収入増を目的に働くものではなく、最低限の生活ができるものであればよいと考えられていました。
しかし戦局が悪化すると、企業は労働者の生活に必要な賃金を払うことが出来なくなり、人々は必要なモノを買えず、都市の労働者は深刻な生活不安に陥りました。そうした中、生産性向上が至上命題である国家は、徴用を中心とする労働義務制、賃金統制、給与体系の規定、就業規則の規制などを通じて、企業を「軍隊化」していきました。この仕組みはブルーカラー労働者とホワイトカラー労働者の待遇の差を小さくし、生産人たる国民に「国家のために貧しさをわかちあう」ことを求めるものでした。
一方、戦時統制をもってしても企業内の身分制度は変わりませんでした。「職分(仕事内容)」による区別ではなく、実際にはホワイトカラー労働者(職員)が指導的立場として扱われ、ブルーカラー労働者(職工)よりも優遇されていました。つまり、企業内部の「身分」によって給料や退職金で大きな差がつけられていたのです。このような「身分」による差別という慣習は、「ホワイトカラーとブルーカラー」だけでなく、現在の「総合職と一般職」、「正社員と非正社員」の差別待遇にも通じるものです。
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