トランスジェンダーが抱える避難生活でのトイレ問題 性規範がマイノリティへの必要な支援を阻害する

【この記事のキーワード】

性規範が支援を邪魔する

この他にも性的マイノリティそれぞれの支援における様々なニーズについては、2011年3月に立ち上げられた「『被災地のLGBTが望むこと』のアイディア倉庫」という有志のポータルサイトが詳しく、ぜひ参照していただきたい。また、災害支援に女性を中心に多様な視点を取り入れた災害支援事例集が「東日本大震災女性支援ネットワーク」により作成され、ネット上で公開されている。マイノリティと支援についての情報やアイディアはが蓄積されているので、こちらも参考にしてほしい。学生、駐在員、最近増えている旅行者など在日外国人も少なくなく、被災する可能性もあるので、異なる文化を持つ人々への支援ニーズと対応事例を取りまとめる動きも進んでほしい。思いつくだけでもイスラム教徒が支援物資に頼らざるを得ない状況にあるとき、ハラールが提供されるのだろうか? と気になった。

もちろん、被災時に「男性である」がゆえに困難を抱え、ケアやサポートが必要であるならば、当然拾われるべき声のひとつだ。被災したひとりひとりが生命が保全されるため、そして先の復興に向けて暮らしの安定を得るためのニーズはいずれも大事なものである。人間の精神の安定を築いているのは日常の習慣であり、そのひとつずつすべてが充足されるとは限らないけれど、耳を傾けられ、供給が検討されるべきだ。

冒頭の生理用品のニーズに関連する話で、先日漫画家の小林よしのり氏が「関口宏の番組で、男のコメンテーターが被災地の女性のために生理用品を届けるべきだと言っていたが、わしが古いせいなのか、そういうコメントは女に言わせるべきであって、男が言うと気色悪いと感じた」とブログに書いていた(著者註:TBS『サンデーモーニング』2016年4月17日放送分)。これは自分のことだろうと、評論家の荻上チキ氏が名乗り、前後の流れを説明したうえで「必要な周知を支援するのは誰でもいい」と小林氏の放言に返していたが、まったくその通りだと思う。

この小林氏の発言に張り付いているのは「これは差別ではなく区別であって」という言い訳のもと、旧態依然とした性規範に他ならない。もちろん男女によって性質の傾向はある程度はあるだろうが、できる人がやればいいというシンプルな話になぜならないのだろうか。支援の現場や仕組み作りにおいて、小林氏の述べたような考えを持つ人が支援を阻害するのではないか。ひとりひとりが要望の声をあげやすい空気、相談しやすい空気作りが大事にされてもらいたい。

【4月26日追記】

本記事の掲載後、「性と人権ネットワーク ESTO」という団体による『東日本大震災におけるセクシュアルマイノリティ当事者の被災状況およびニーズ・課題に関する調査書』の存在を教えていただいた。

遠藤まめた氏のブログで紹介されていたものだが、氏が指摘する「カミングアウトを避けたい」当事者の在り方は被災時でも尊重されるべきである。

そのために「「セクシュアル・マイノリティに限らないニーズ」という視点を持って、他の支援団体と連携をすることが、実際の支援の場でも役立つのではないか」という発想は傾聴に値する。

性的マイノリティでもある被災者への支援の参考になると思うので、以上を追記させていただく。
鈴木みのり

1 2 3

「トランスジェンダーが抱える避難生活でのトイレ問題 性規範がマイノリティへの必要な支援を阻害する」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。