会社に支配され雑に扱われる男たち、怒ったり逃げたりしていいんじゃないか?/男性学・田中俊之さん

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田中「男女雇用機会均等法が施行されても、結局『総合職』と『一般職』という区分けがされて、女性は『一般職』へ行き、寿退社する流れでした」

――その男女雇用機会均等法について文春新書『働く女子の運命』(濱口桂一郎)で詳しく書かれているのですが、それ以前って女性労働者には保護規定があったんですよね。今でも児童は夜間労働などをしないように保護されていますが、当時は女性に時間外労働や深夜労働をさせてはならないという保護規定があった。で、女性自身もこの保護に甘えていて勤労意欲が低いと見られていた。そこで雇用機会均等法によって母性保護をのぞく女子保護規定がなくなり、保護されていない男性と同じように働いてもいいということになりました。しかしそもそも、男性労働者に対して雑に扱い過ぎじゃないのか? と、私は思うんです。独身女性に対しても同様ですが、長時間労働をはじめとして、労働者に無茶を求める職場が多すぎます。これは産後の女性の職場復帰にもつながる話で、「育児中の女性は“無茶”できない」から要らない存在、お荷物になっちゃう。17時とか18時過ぎても一向に退社しない、それどころか終電まで働くような職場環境のほうがおかしいのに、それに合わせられない社員はダメって、変じゃないですか?

田中「それはおっしゃる通りで、『家族給』を与えられる男性社員というのは、一家を養えるだけの賃金をもらう代わりに、すべてを会社に捧げなければならなかったんですね。他のものを犠牲にして、会社での仕事に全力で挑むという。その結果として今、定年後に何もやることのない高齢男性たち……という問題も顕在化していますが。

でもこの問題を解決に向かわせるには、やっぱり、男性自身が声を上げていかなければならないと思うんですね」

――自ら「男が働かない、いいじゃないか」と言っていく、ということですね。

田中「仕事を一歩引いた視点で見ることが出来ればいいんですよね。中公新書『左遷論』(楠木新)の書評を先日書いたんですが、たとえば左遷されてみると、仕事の見方が変わるかもしれません。出世レースからはずれちゃったから趣味のスキーを再開してみたら、すごくイキイキして職場でも明るくなったという男性の話とか、病気をして働けなくなった男性たちの話などがあるのですが。サラッと『病気で働けなくなった人がたくさんいて驚いた』と楠木さんは書いているのですが、そりゃいるだろうと思いますよね(笑)。病気にでもならないと仕事を辞められないんですから。ぶっ壊れないと止まれないなんて、明らかにこんな社会はおかしいですよ。不健康になってまで、働きたくないですよね」

――健康第一ですよ。

自分を大事にする若者、いいじゃないか

田中「今の若い人は出世意欲が薄い、という話をしばしば耳にしますよね。でもこれって良いことなんじゃないかなと僕は思います。しかも昔みたいに、終身雇用で年功序列の会社ばかりじゃないわけで、雇用が不安定なのに会社のために自分を犠牲にするはずがない。給料は安くてリターンがないのに、滅私奉公だけしてくださいって企業の理屈は通らないですよ」

――「最近の若者はダメ」系の嘆きっていつの時代も見られますよね。今だと「ゆとり」とか。大事に甘やかされて育てられて、根性がないとか打たれ弱いとかね。私はむしろ、大事に育てられた子供たちが今、20代以上になって、自分の権利をちゃんと主張したり自分の身の丈にあった仕事だったり生活リズムを身につけるよう意識できているということだと解釈しているので、良い傾向だと思っています。

田中「大事にされて育ったから自分を大事にしようと思ってるんだったら、良いことですね確かに! 僕もこれまでの著書で一貫して、『自分の人生なので自分はどうしたいかを考えましょう』と言ってきているのですが、それを具現化できる世代が育ったとしたら素晴らしいです」

――他方、社会がまだそれを許さない風潮があります。「女は産め、男は働け」と他人の人生に口を出してきます。

田中「以前、北海道で中年男性向けの市民講座をやったときに、東京の大企業に就職してずっと働いていたけれど、リタイアして地元の北海道に帰り、今は地元企業で働いている50代の男性にお会いしたんですね。その男性は新卒で入った大企業で、先輩社員から『死ぬまで働けよ』と笑顔で言われたそうです。これは長期間にわたってウチの会社で働き続けてねという意味ではなくて、『死ぬ気で働け』という意味でした。残業とか休日出勤も厭わず、過労死レベルでも働けよと……」

――それを「個人の成長のために必要」と言い募る輩までいますからね。

田中「でもそういう価値観が、まだ『世の中の主流』なんじゃないかなと思っていて。こうやって取材を受けていたり、同じ問題意識を持った方々とお話していると、『おお、我々の勝利は近いぞ』という気分になってくるんですけど(笑)、たぶんこの感覚はまだ社会ではマイノリティですね」

――ですね。頑張りましょう。

田中「でもね、仕事ってハマりやすいですよね。頑張ればそのぶん評価される職場だと特に、際限なくやってしまいそうになるじゃないですか」

――その感覚もわかります。気持ち良いですからね。

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