会社に支配され雑に扱われる男たち、怒ったり逃げたりしていいんじゃないか?/男性学・田中俊之さん

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「オトコ気」という無茶苦茶

――今日、田中先生の主張と近いものがあると思って、元野球選手で吉本興業所属のタレントになった石井一久さんの『ゆるキャラのすすめ』(幻冬舎)という本を持ってきたんです。男らしさや根性論を全否定、妻に世話を焼かれることも望まないそうです。付箋を貼ってきたので一部読んでいいですか。

「気合い」だの「根性」だの「魂」だのという言葉を並べ立てて、実際は無理や無茶を強いるオトコ気を押し付けてくる人のことを信用しないし、オトコ気至上主義的なムードに搦め捕られて疲弊してしまっている人は、とてもかわいそうだなと思う(p55

ダメなときは「ダメです」「できません」「休ませてください」と正直に言えばいい。(中略)よりよい将来のためにも、オトコ気を出すことで得られる瞬間的な称賛や高揚感に流されてはいけない。(p59

田中「男性学的な発想ですね。石井さんが『オトコ気』に飲まれずに自分の考えを通して結果を出してきたことはすごいことですよね。もし『オトコ気』に飲まれていたら自分のペースで野球に取り組めず、22年間プロ野球選手として活躍してこられなかったかもしれないですよね」

――気合い、根性、魂……無茶なオトコ気に飲まれてしまった野球選手としてどうしても清原和博さんを連想してしまいます。

田中「清原さんは40歳の時にこたえたインタビューで、自分は繊細で弱いから、筋肉などで過剰に武装して威嚇しているだけだ、と話していたのが印象的です。強い男を象徴する存在になってしまい、しんどく思う部分があったのではないかなと」

――また、一般会社員でも、無茶ぶりをされたときに「無理です」と言えればいいのにと。徹夜してまでやらなきゃならない仕事なんて、そう多くないですよ。

田中「言えないんですよね。『言えない』と思っちゃってる。所属する組織にい続けなければならないと思い込んでいて、『無理です』と言ってしまうと、いづらくなるんじゃないかと予感して口をつぐんでしまう。これすごいですよね。『無理だなんて言うな!』と命令してるわけじゃないのに、相手に『言っちゃまずいだろう』と予感させて、言えなくする空気がその職場内で完成されている。そういえばこの時期、新卒の新入社員が街に解き放たれます。今日もここへ来る途中で見かけたのですが、見ましたか?」

――遭遇しなかったです。どんなことをしていたんですか?

田中「街頭インタビューのようなことをさせられていました」

――えっ?

田中「着慣れないスーツを着た若い人が、通行人に『ちょっとお話をきかせてください』と声をかけまくっていて、無視されたりしばしば怒鳴られたり。あのような新人研修って何なんでしょうね。新入社員に理不尽なことを経験させて、鍛えようとしているんでしょうけど」

――仕事って理不尽なものなんだ、って思い込ませようとしている。なんかそういう空気ありませんか? 仕事なんだからつらくて当たり前だ耐えろとか、給料もらってんだから甘えるなとか。そんなつらい仕事、普通やりたくないですよね。

田中「できればつらくないことをして稼ぐのがベターですよね。よりベターな働き方を選択すればいいのに、皆さんつらい自慢とか耐久レースをしていますよね。そういえば僕の友人で会社員をしている男性が管理職になったそうで、『この役職に就いたからには、君は嫌われ役だから』と上司に言われたそうなんです。あえて部下にキツいことを言って嫌われる役回りを引き受けてくださいね、と。でも彼は『別にわざわざ嫌われたくないんだけど』。そりゃそうですよね。あえて嫌われるようなことをせずに、部下をうまくまとめられればそっちのほうが良いじゃないですか。嫌な上司になりきれっていうのは、その彼にとってもストレスだし、部下にとってもストレスですよね。会社に嫌いな上司がいたらイヤじゃないですか? 誰も得してないですよ」

――上司がすごい嫌なヤツだったらまず転職を考えますよね。

田中「管理職の立場だってイヤですねえ。部下に嫌われて疎まれながら働くなんて」

会社を辞めても人生は続く

――もうひとつ、石井さんの本から。

建前上は「男も女も関係ない!」なんて言いながら、本音の部分では「そうは言っても、最終的には男のほうが能力がある。男のほうが上だ」なんて考えている男性は、想像以上に多い気がする。(p92

僕がいなくても、ウチの奥さんはひとりでしっかり稼いで、生きていける人。だから、僕は自分の奥さんに対して「養っている」みたいな感覚を持ったことが、結婚から現在に至るまで、ただの一度もない。(p93

田中「奥さんってどなたでしたっけ?」

――元フジテレビアナウンサーの木佐彩子さんですね。ご夫婦にはお子さんも一人いらっしゃいますね。いや、よく「女子アナは玉の輿を狙って野球選手にモーションかけまくっている」なんて下世話な週刊誌ネタが出ますけど……。

田中「結婚したらしたで内助の功とか期待されますしね。プロスポーツ選手って長くて40歳じゃないですか。その後、コーチになるなどの道はあるにしても。でも現役時代に豪勢な暮らしぶりをして、引退後もそのまま維持しようとしたら破綻しちゃいますよね。そうしない、長い人生の先を見据えた生き方をしているところが、石井さん良いですよね。スポーツ選手では稀なんじゃないでしょうか。格闘家の青木真也さんも近い考え方をしていて、生涯の所得はいくら、引退したら家族で暮らしていくとか息子の教育にいくら必要で……とか計算してやっている。年齢を重ねるごとに収入が増えてゴージャスになって、とは考えていない。それはそうですよね、スポーツ選手だから。でもそういうことを、サラリーマンの人も考えたほうがいいんじゃないかなとは思うんですよね。たとえば20代30代でがむしゃらに働きまくっても、そのまま定年まで同じように頑張れないじゃないですか。どこかでペースを落とさないと。40歳ぐらいから人生は下り坂なんですから、調整していかないといけないですよね。それに定年後も人生は続きますから、妻との関係をどうしていくかとか」

――そうですね。

田中「石井さんのこの本、良いですね。でも今って、こういうエッセイよりも、『××で●万円稼ぐ!』『デキる男の仕事術』といったタイトルの本のほうが、売れるんだそうです。これもどうしたものかと思いますね。みんなで『デキる男になろう!』とやっていってもしょうがないんじゃないかと。僕ら男性は生まれたときから競争ですが、競争したってゴールはないじゃないですか。他人と比べて相対的に良いか悪いかじゃなくて、自分の人生ですからね」

――競争は、走っている間でたまに高揚感を得られるかもしれませんが、人生の長さを考えれば持続可能性に乏しいですよね。

後編では引き続き田中先生に、恋愛において男性がこなすことを当然視されている理不尽な課題について、伺っていきます>

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