『働きマン』から10年、『重版出来!』がアップデートした戦う女性編集者

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『重版出来!』公式サイトより

『重版出来!』公式サイトより

 こんにちは、さにはにです。今月も漫画を通じて女性の生き方について考えるヒントを探したいと思います。よろしくお願いします。

 今回ご紹介するのは、松田奈緒子先生の『重版出来!』(小学館)です。2011年より「月刊!スピリッツ」にて連載されている本作は、2014年に日本経済新聞「仕事マンガランキング」にて第1位を獲得したほか、2016年4月よりTBS系でテレビドラマ化されるなど、現在注目されている作品です。

 タイトルになっている「重版出来」とは「初版(出版された書物の最初の版のことです)と同じ版を使用・同じ判型・装丁にて刷りなおすこと」という意味だそうです。日常的な言葉に言い換えると、売れ行きがいいので追加印刷するということになるでしょうか。

 本作の主人公は、「読者に支持されて売れた作品であるという証」とされる「重版出来」をめざして奔走する新卒の漫画編集者・黒沢心です。これまで漫画の執筆や出版をめぐるサクセスストーリーを描いた作品には、土田世紀先生の『編集王』(小学館)や大場つぐみ先生・小畑健先生による大ヒット作品『バクマン。』(集英社)をはじめ多くの名作がありますが、過去の作品同様、アクの強い編集者と作家との人間関係、ベテランと新人の違い、作品を生み出すことの難しさやおもしろさといったエピソードを通じて主人公たちの成長や格闘などが本作では描かれています。

 そのうえで『重版出来!』が興味深いのは、今日的な働き方に接近している点にあるように思えます。私たちが日常的に接する機会の多いコミックスや雑誌は、時代を作っていくという情報産業としての側面があるため、フットワークの軽い新しい業界のように感じられるかもしれません。しかし製造業や物流業という「ものづくり」の側面も持ち合わせているのがこの業界の宿命であり、昔からの慣例や体質が今日でも生きているという「古い体質」をも出版業界は持ち合わせています。

 製造業的な、本という「もの」を作る漫画家と編集者に加えて、店頭で売る書店員や出版社の営業、デザイナーなど出版に関わるさまざまな人々にスポットをあて、誰もが情熱をもって働いている『重版出来!』の視点は、働き方や組織のありかたに対する今日的な考え方を反映しているようにも思えます。

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